企業法務フルサポートMEDIA

企業法務フルサポート 本サイトへ

メールマガジンに登録する

DXを阻害するレガシーシステム-問題点と解決策

DXの必要性と問題点

あらゆる産業において新たなデジタル技術が普及し、業種の壁を越えた新規参入企業が登場している中、各企業は競争力維持・強化のために、デジタルトランスフォーメーション(DX)を迅速に進めていく必要があります。

現在、この必要性については多くの経営者が理解しており、DXを推進すべくデジタル部門を設置する等の取組みが見られます。しかし、ある程度の投資は行われるもののPoC(概念実証)止まりとなってしまい、実際のビジネス変革には繋がっていないのが現状です。

この際,ネックとなっているのが「レガシーシステム」です。

既存のITシステムの多くが、技術面の老朽化・システムの肥大化や複雑化・ブラックボックス化を抱えており、これが経営・事業戦略上の足かせ・高コスト構造の原因となっていることが「レガシー問題」として指摘されています。

レガシー問題の背景

レガシー問題には様々な背景がありますが、大きく3つを例に挙げてみます。

まず1つ目は、事業部ごとの最適化を優先しすぎたことです。

各事業の個別最適化を優先した結果、気付けば全体としてのシステムが複雑になり、企業全体での情報管理・データ管理が困難な状況になってしまう状況が多く見られます。

次に2つ目は、退職等によるノウハウの喪失です。

国内企業では、大規模なシステム開発を担ってきた人材の定年退職の時期が2007年頃でした。この時期が過ぎ、人材に属していた既存システムに関するノウハウが失われたことで、システムのブラックボックス化が進行してしまいました。

最後に3つ目としては、業務に合わせた過剰なシステムのカスタマイズです。

ユーザー企業が好むスクラッチ開発や過剰なカスタマイズ開発を行ってきた結果、個々のシステムに独自のノウハウが存在するようになり、何らかの理由でその一つが消失した際にブラックボックス化が生じてしまう状況を指します。

このように、現在まで企業が良かれと思って行ってきた開発が今になって経営に魔の手として忍び寄っているのです。

レガシー問題の難しさ

しかし、あくまで企業としては「良かれ」と思って普通に行ってきた開発です。それが生み出している問題に気付くことは、実は容易ではありません。

ユーザー企業は、気付かない

ユーザー企業、つまりシステムを利用している企業は、自身がレガシー問題を抱えていることには気付きづらいという特徴があります。

というのも、日常的にシステムが利用できている間はそのシステムに欠陥や無駄があるということを実感する機会がありません。維持の限界が来た時に初めて「気付く」わけです。

仮に気付いている場合であっても、問題の根本的な解消には時間・費用・労力を多大に要することになります。また、新システムの開発となれば失敗のリスクもゼロとは言えません。
特に体力の乏しい中小企業などにとっては、見て見ぬふりをしたい問題でしょう。

ベンダー企業には、気付けない

ベンダー企業としても、新規案件として受注する段階ではそのシステムがレガシー問題を抱えているかどうかまでを見抜くのは困難です。

まず、ユーザー企業に問題の自覚が無ければ発注の段階でその点について申告はありません。また、多くの場、企業のシステムは複数のベンダーの仕事によって構成されています。

すると、そのうちの1つのベンダーが、システム全体の情報を取得することは困難であり、全体像をつかむことができないためにレガシー問題の発覚が遅れるという問題もあります。

よって、開発を開始してからレガシー問題が発覚し、当初の見積もりと予算が大幅に変更になることから、ユーザーとベンダーの間でレガシー問題に対する認識が異なると、紛争が起こる可能性もあります。

レガシー問題の最大の壁

このように、レガシー問題は「認識するまでに」いくつかのハードルがあります。
しかし,なんとか認識されても、すぐに解消の着手にとりかかられない可能性も大いにあります。

つまり,今現在、問題なく稼働しているため、広く危機感を持ってもらうことが難しいのです。「レガシー問題に対する改修プロジェクトは自社経営陣の理解を得難い」のです。

そして、このような内部での認識の違いが問題解決の機会を妨げてしまうことが、レガシー問題の最大の壁なのかもしれません。

レガシーシステムによる損失

レガシーシステムは、確かに現在大きな問題なく利用できているシステムかもしれませんが、=レガシーシステムによって損失が発生していない、ということではありません。

「DX推進のためにはビジネスモデルやITシステムの刷新が必要」と言っておきながら、現在、国内企業のIT関連費用の約80%は現行ビジネスの維持・運営に消えています。この結果、当然、攻めのIT投資は資金・人材ともにできていない状況です。

また、短期的な観点でシステム開発を行った結果、長期的に本来不要であった維持費や運用費が高騰している「技術的負債」の問題も深刻であり、既存システムを放置し続ける限り、この技術的負債は膨らむばかりということになります。

「2025年の崖」を真っ逆さまに

ここで一度、レガシー問題を解消できない場合に生じるリスクについてまとめます。

ユーザー企業に生じるリスク

①企業全体としてデータを活用しきれず、DXの実現ができない。
これにより市場の変化についていくことができず、企業の競争力が落ちる

②現行システムの管理維持費が高額化する。
IT予算の9割以上となり、「技術的負債」が膨らんでいく

③保守運用の担い手が減り、セキュリティレベルが低下する。
システムトラブルやデータ滅失等のデジタルリスクが高まる

これが、ユーザー企業に生じるリスクです。ここに加えて、ベンダー企業がたどる道筋も付け足すと次のようになります。

ベンダー企業に生じるリスク

①技術的負債の保守・運輸にリソースを割かざるを得ず
最先端のデジタル技術を担う人材が確保できない。

②レガシーシステムサポートに伴う受託型業務から脱却することができない。

③クラウドベースのサービス開発・提供という世界の主市場へ参入していくことができない。

ここまで視野を広げると、せっかくデジタルという国境のない市場を前にしながらその市場に参入していくことができず、世界の流れに置いて行かれてしまう……というシナリオが見えてきます。

このようにして、国内企業がレガシー問題を克服できなかった場合、DXが実現できないのみではなく、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じると言われています。これが2025年の崖です。

DX推進に向けての課題と対応策

前述のような恐ろしい2025年の崖を回避し、DXを推進するためには既存のシステム、レガシーシステムを、新たな技術に適応するように刷新することが必要不可欠なのです。
そこで、問題解決の糸口として、DX実現に向けて現状と課題そして対応策を大きく把握していきます。

レガシーシステムの問題点と解決策

■問題点Ⅰ

既存システムの問題点を把握し、いかに克服していくか、経営層が描き切れていない

DXの必要性は認識しているが、新たなデジタル技術を活用できるように既存システムを刷新するという判断に至っている企業はまだ少ない

解決策

「見える化」指標、中立的な診断スキームの構築
「DX推進指標」を利用して、経営者や社内の関係者がDXの推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションに繋げるための気づきの機会を持つ

■問題点Ⅱ

既存システム刷新に際し、各関係者が果たすべき役割を担えていない

・経営トップ

事業部ごとに多様になってしまったシステムを全体標準化しようとした時、各事業部の反対を押し切ることができるだけの強いコミットがない。

・情報システム部門

企業でシステムの中核を担う情報システム部門が、自身のビジネスに適したベンダーを複数のベンダーの中から選定するより、付き合いのある大手ベンダーからの提案を鵜呑みにしてしまう傾向が強い。

・事業部門

プロジェクトに対してオーナーシップを持っておらず、情報システム部門とのコミュニケーションが十分に取られていない場合が多くなっている。そのため、開発されたシステムが事業部門の満足いくものにならず不満が生まれてしまう。

解決策

「DX推進システムガイドライン」での提示を参考に体制のあり方や実行プロセス等を確認

■問題点Ⅲ

多大な時間とコストを要すため、経営者にとってはリスクの方が大きく認識されてしまう。

解決策

新ITシステム構築におけるコスト・リスク低減のための対策をとる

・システム刷新後のゴールイメージを共有する

・刷新前に、不要なシステムは廃棄して軽量化しておく

・モノリスではなくマイクロサービスを活用することで開発を機能ごとに細分化し、大規模・長期に渡るリスクを避ける

・早めの着手により、コネクテッド・インダストリーズ税制を活用する

■問題点Ⅳ

ユーザー企業とベンダー企業の関係性が望ましくない

・開発に関して

ユーザー企業は要件定義からベンダー企業に丸投げしてしまうケースも多く、ベンダー企業もその要求を受け入れてしまっている。

・責任関係

契約の形態としては「請負契約」「準委任契約」が多くなるが、契約に当たってユーザー企業とベンダー企業との間の責任関係や作業分担が明確になっていない。そのため、損害賠償請求などの訴訟リスクを抱えている。

・アジャイル開発の契約

DXに取りかかり始めた段階では、仕様が固まっておらず従来のウォーターフォール開発よりもアジャイル開発の方が適している場合もあるが、そのような新しい開発手法には契約形態も従来の物では対応しきれず、適した契約形態が整備されていない。

解決策

ユーザー・ベンダー企業間で新たな関係の構築を目指す

従来の契約形態を見直し、アジャイル開発においては技術研究組合の活用等も視野に検討。

モデル契約にはトラブル後の対応として訴訟ではなく、ADRの活用を促進。

■問題点Ⅴ

人材の不足

・DX推進において

ユーザー企業内にITシステムに精通しており、プロジェクトをマネジメントできる人材が不足している。そのため、技術的な開発以前の段階からベンダー企業に頼らざるを得ない状況になっている。

・ベンダー企業側

老朽化したシステムの使用を把握している人材のリタイアが進み、メンテナンスに困窮する。

また、先端的な技術を持ち合わせた若い人材を既存システムの維持・保守に充てなければならず、世界的な主流システムの開発に乗り遅れてしまう。

解決策

DX人材の育成・確保

既存システムの維持・保守から、今ある有能な人材を開放する。

また、アジャイル開発を実践することによって、ユーザー企業の関係者にとっては開発手法を学び、ベンダー企業の人材にあたっては業務を学ぶことに繋がるので、双方の人材育成に繋がる。

DX成熟度を自己診断

DX化に向けて一歩目を踏み出すにあたって、まずは問題や課題の全体像をつかむことが大切になります。

そこで、有効なツールとして紹介したいのが、経産省が「DXレポート」「DX推進ガイドライン」に続いて公開した「DX推進指標」です。

DX推進指標は、「DX推進の枠組み」と「ITシステム構築の枠組み」に分類される35問に、それぞれ6段階の成熟度レベルで回答していくだけで自社のDX推進レベルを自己診断することができます。設問ごとにレベル判断のためのガイドも付いておりある程度明確な基準をもって回答を出すことができるでしょう。

発行者である経産省によれば、この自己診断の目的は企業に優劣をつけることではなく、企業内でプロジェクトの関係者となる経営者・事業部門・情報システム部門がそれぞれの立場から同じ設問に回答することで、DXに対する取り組みへの認識の違いを明らかにし、擦り合わせる機会に利用されることだといいます。

「DX推進指標」を利用して社内で認識はもちろん、気持ちもひとつに、思い切ってDX推進体制の整備に乗り出してみてはどうでしょうか。「2025年の崖」まであと5年、カウントダウンは始まっています。

メールマガジンに登録する

この記事を読んだ方は
こんな記事も読んでいます