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工場や建設工事の騒音規制-クレームや苦情への対応方法

工場や工事現場においては、機械音および作業音などがつきものであり、業務を遂行する上で「騒音」は避けては通れないものです。

しかし、近隣の住民からはかなりの確率で「うるさい」「日常生活に支障が出る」とクレームなどの苦情を受ける対象となるものであり、事業者側からすれば、「そうは言われても……」と頭を悩ませる問題の一つといえるでしょう。

そこで、工場稼働や工事などに際して生じる騒音に対し、クレームや苦情を受けたときの対応方法を、実際の損害賠償の事例などもご紹介しつつご説明します。

騒音被害の法的な問題点とは?

まず、騒音被害はいかにして法的な問題へと発展するのでしょうか。考えてみればこの世の中、全くの「無音」という状態はまずありません。「静か」と分類される自然の中にいても、何かしらの音は聞こえるでしょう。また自分自身も日常生活を送る上で、一定の生活音を発しています。

言い換えれば、真空空間にでも行かない限り、私たちが生きていく上で各々に一定の「音」を出すのはやむを得ないということです。よって、自分も日常生活において発している程度の「音」に関しては当然ながら受容すべきものと考えられてます。

しかし一方で、私たちの生活の中で発生する可能性のある音はどのような音も、地域や時間帯によってはその大きさに限らず、受任限度を超えた騒音になる可能性があります。
騒音に関する公的機関への苦情件数は高い水準で横ばい傾向にあり、その中でも建設作業・工場や事業場から発生する騒音に対する苦情は全体の約60%にものぼっています。

工場・建設現場の音を規制する法律

以上のように、工場や工事によって生ずる騒音は、開発が進む現代において一つ社会問題でもあります。
そこで、それら工場・事業場や建設作業から発生する著しい騒音を規制するとともに、自動車から発する騒音の許容限度を定め、人々の生活環境を保全し、健康を保護するために1968年に制定されたのが「騒音規制法」です。

騒音規制法の規制の仕組みとしては、規制対象規制基準の二本柱となっています。
まず、都道府県知事や市長・特別区長は、騒音について規制する地域(指定地域)を指定しています。そして、その地域内において設置されている工場・事業場や行われる建設作業を対象として、規制基準が定められています。

工場・事業場と建設作業それぞれの対象と基準についてここで簡単にまとめておきます。

―工場・事業場―

指定地域内で特定施設を設置している工場・事業場を対象としています。

特定施設には、11の設備が該当します。例えば、金属加工機械・空気圧縮機および送風機・織機・建設用資材製造機械・穀物用製粉機・印刷機械などがこれに該当します。
 そして、規制基準には、区域と時間帯、そして音の大きさ(デシベル)が関係します。それぞれの区域と時間帯には、表内の大きさに音量を抑えなくてはなりません。

―特定建設作業―

指定区域内で行われる特定建設作業を規制対象としています。

特定建設作業には8つが列挙されており、くい打ちくい抜き・びょう打・空気圧縮機・コンクリートプラント・トラクターショベルなどが該当します。
 そして、こちらにも規制基準がありますが、建設作業という特殊性から、作業期間や作業日といった項目も考慮されます。一覧は以下の表の通りです。

規制に反した場合のペナルティ

騒音の規制に反した場合は、以下のようなペナルティを受ける可能性があります。

事業者の義務と罰則

指定地域内において、上記のような工場・事業場などの設備ならびに建設作業を行う場合には、事業者はあらかじめ、市町村長や特別区長に届けなければなりません。届出は、特定施設を設置する場合30日前まで、特定建設作業は作業を行う7日前までに行うこととなっており、行わなかった場合は罰則を受ける可能性があります。

行政措置

市町村長や特別区長は、規制基準や要請限度を超える騒音により、周辺の生活が損なわれていると認める場合、改善勧告や命令を行い、従わない場合には罰則を課すことができます。

一般的な騒音に関する基準

上記の通り、騒音規制法は特定の域内の特定の行為に関する騒音にのみ適用される法律となります。しかし、問題となるすべての騒音が、この対象となるとは限りません。では、対象外の騒音については、何らの基準もないのでしょうか。

騒音について、広く一般的に基準を定義しているものがあります。それが、環境基本法第16条第1項の規定に基づく騒音に係る環境基準です。この基準も、地域の分類と昼夜の区別、そして音量によって規制基準が設定されています。

ただし、この基準は建設作業騒音には適用されないものとなっていますので、結局、建設作業については、明確に数値として規制が示されているのは騒音規制法のみということになります。

判例と騒音

ここまで法的な数字による基準を見てきましたが、実際に裁判で騒音が「違法」と判断されるのは、その騒音が「受忍限度」を超えたときとなります。

この受忍限度の判断は一律ではなく、音量が法律で規制されている場合はその音量の上限を超えているという事実の上に、騒音を発生させている行為の態様や程度またその行為の必要性や、被侵害利益の性質と内容、さらに周辺の地域環境、被害防止措置の有無など、様々な要素を加えて総合的に判断されます。

そして、受忍限度を超えると判断された場合には、その騒音は、周辺住民の何らかの権利を害する「違法」な騒音ということになりますので、工場などの設備や建設作業の差し止めや、明らかな被害(病気など)が生じているケースでは損害賠償に発展する可能性があります。

騒音クレームが損害賠償に繋がった事例

実際に、判例では騒音に対するクレームや苦情から損害賠償請求を認めた事例が複数あります。

例えば、宮城県気仙沼市で起きた、隣家から製材作業の騒音に対して合計260万円の損害賠償金が認められた事案があります。

判旨では、「公法上の規制と司法上の救済とでは趣旨や目的が同一ではないため、公的基準に反したからと言って直ちに司法上の違法性が肯定されるものではない」としながらも、「公的基準は生活環境保全のための重要な基準であるから……公的基準を超えている場合は受忍限度を超え、違法と認むべきである」と示されています。

H5.12.20 仙台高裁判決

また、この事案では工場は稼働を始めて約3年で騒音防止設備を整えるに至り、その時点以降は受忍限度超える騒音は発していませんが、設備を整えるまでの騒音について違法と認められ賠償をする結果となりました。

このように、たとえクレームや苦情を受けた後に対応をしても、それ以前の状況に事業者として過失が認められるなどの場合には、損害賠償が認められるケースもあります。よって、これを踏まえての最善策は、「クレームや苦情が出る前に、できる限り確実に騒音防止対策をとっておくこと」といえるでしょう。

騒音クレームに対する対応でやってはいけないこと

クレーム対応にはさまざまなNG行動があります。その中でも、騒音のクレームに対して、絶対に避けなければならない対応があります。それは「音が出るのは仕方がない」という開き直った対応です。

確かに、工場や建設作業は無音では行えません。作業をしている事業者としては、ただ自分の仕事をしているだけで、決して悪意をもって音を出しているわけではないため、苦情を受けると、つい感情的に反論したり、開き直ってしまったりしたい気持ちになるものです。

しかし、クレームや苦情を申し立てた周辺住民は、ただ自分がその場所に生活しているというだけで騒音にさらされているのですから、事業者としては、その心情も察するべきでしょうし、その上で少しでもクレームや苦情に真摯に対応する姿勢が重要です。
例えば、作業時間を少し短縮したり、作業時間を住民が出払っている時間帯にずらしたり、発する騒音が少しでも住民の迷惑にならないようにしたりすることで、クレームや苦情を認め、工場や建設作業を行う側が譲歩したという事実を示すことが重要です。

といいますのも、企業側としては避けたいシナリオではありますが、クレームや苦情から訴訟に発展した場合、「差し止め請求」「損害賠償請求」に発展するかどうかは、クレームや騒音そのものに対し、「誠実な対応がなされたか」に左右される可能性が、裁判例から読み取ることができます。
なんといっても、相手は「人」です。よって、客観的な目線から見て正当な苦情に対しては、誠心誠意、「違法な」騒音にならないように中を払い、譲歩しながら仕事を進めることができれば、訴訟や賠償など、大きな問題に発展する可能性を減らせるはずです。

ただし、中には、事業者の行為と因果関係のない損害を訴えてきたり、損害と明らかに釣り合わない要求をしてきたりする、いわゆる「クレーマー」もいないわけではありません。
そのようなクレーマーに対しても、まずはそれぞれの観点から要求に応じられない理由を丁寧に説明することが必要であり、重要です。そして、担当者や自社の対応窓口での対応が手に負えなくなった場合には、弁護士などの専門家に法的な視点からの対応や交渉を、相談してみてはいかがでしょうか。

当事務所も顧問先のクレーム処理の対応は行っておりますので、クレーム対応にお困りの場合は一度ご相談ください。

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