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2021年3月障害者の法定雇用率が2.3%に-障害者雇用率を上げるポイント

2020年8月、厚生労働省は2021年3月1日より障害者の法定雇用率を現行の2.2%から2.3%に引き上げると発表しました。障害者雇用に対する理解は少しずつ進んでおり、障害を持った労働者も増えてはいますが、実雇用率はまだまだ低迷しているのが現状です。

法定雇用率はどう決まっているのか、達成するためにはどのようなことが必要なのか。この記事では、障害者の法定雇用率について解説するとともに、雇用率を満たすためのポイントについても見ていきたいと思います。

1. 障害者雇用率制度とは

障害者雇用促進法では、障害者の就業の安定を図るため、民間企業をはじめとして国や地方公共団体などに対し、「法定雇用率」以上の障害者を雇用する義務を課しています。(法第43条第1項)法律によって、従業員全体に対して障害者である労働者が確保すべき割合が決められているということです。
現在、民間企業の障害者雇用率は2.2%と設定されており、これは45.5人以上を雇用している会社では少なくとも1人の障害者を雇用しなくてはならない計算になります。

1-1: 法定雇用率の引き上げは2021年3月1日から

法定雇用率は、1976年に1.5%で義務化されてから現在まで、段階的に引き上げられてきました。そして、このたび民間企業に義務づける障害者の法定雇用率は2.3%へ引き上げられます。

2020年7月の段階では、その引き上げ時期について2021年1月1日とすることが決定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を鑑み、引き上げ時期を2か月後ろ倒しにして、現在は2021年3月1日からとする方針が示されています。
雇用率が2.3%に引き上がると、43.5人以上の雇用がある企業では少なくとも1人の障害者を雇用する必要があることに留意しておきましょう。

1-2: 障害者雇用率の計算方法

障害者雇用率は以下の計算式で算出されています。
なお、この数値は社会の変化を反映するため、5年ごとに見直しが行われています。

障害者の範囲

現在、対象障害者とされているのは、身体障害者・知的障害者・精神障害者になっています。精神障害者が対象に加わったのは平成30年の法改正からで、これによって障害者雇用率の数値は、ますます上がっていくことが想定されています。

除外率について

従前は、一般的に障害者の就業が困難であると認められる業種については、雇用すべき障害者を計算する際の労働者数から所定の割合の労働者数を控除することができる、除外率制度が運用されていました。しかし、この制度はノーマライゼーションの観点及び社会的な技術の向上から2004年に廃止されています。
現在は、経過措置として従前の割合から一律10%引き下げた数値での運用がされています。

1-3: 雇用人数のカウント方法

障害者雇用率を使って、実際に雇用すべき障害のある方の人数を計算してみます。

法定雇用障害者数=労働者数×障害者雇用率

このように、雇用している労働者数に障害者雇用率を乗じて、雇用人数の最低値を求めます。ただし、ここで労働者数は、必ずしも実際の人数と等しくはならないため注意が必要です。障害者である労働者の障害の重度週所定労働時間によって値に調整が入ります、詳細は以下のとおりです。

① 週所定労働時間について

1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者を「常用労働者」として、1と数えています。この所定労働時間が、20時間以上30時間未満の労働者は半分の0.5、20時間未満の労働者は対象としてカウントされません。
これによって、短時間労働者ばかりを雇って形だけの雇用人数を満たすという制度の趣旨に反する雇用を制限しています。

また、名称は常用労働者となっていますが、パート・アルバイト等で有期契約労働者である場合にも、その期間が反復更新され雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者は、常用労働者に該当し得ますので注意が必要です。

② 重度障害者の場合

身体障害・知的障害をもった労働者については、その障害が重度の場合、計算上の人数を倍に数えます。
つまり、重度の身体障害ないしは知的障害をもった常用労働者であれば2、短時間労働者であれば1とカウントされます。

③ 精神障害者について

平成30年の改正によって雇用義務の対象となった精神障害者については、重度の別なく常用労働者を1、短時間労働者を0.5と数えるのが基本となっています。
しかし、精神障害者の職場定着を促進するため、障害者雇用に関わる一定の制度について以下の条件を満たした短時間労働者は、1と数えることとなりました。

精神障害者である短時間労働者であって、

  • ・雇入れから3年以内 または
  • ・精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内
    かつ
  • ・令和5年3月31日までに雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得

1-4: 障害の認定方法

障害を持つ労働者の就業機会を確保することは今後の重要な課題ですが、障害を持つ労働者であるという証明はどのようになされるのでしょうか。
障害者雇用促進法において雇用義務の対象となる障害者は、原則として障害者手帳を持っていることが条件となります。

身体障害者

身体障害者手帳によって確認します。等級は1~6級までとなっており、1級が最も重度です。この中で、障害者雇用率の制度にて重度に分類されるのは1級と2級になります。

知的障害者

知的障害者であることは、原則として療育手帳によって確認します。療育手帳を有しない場合であっても、都道府県の判定機関の交付する判定書によって確認することもあります。等級は大きく重度がA、中軽度がBと二分されています。

精神障害者

精神障害のあることは、都道府県から交付される精神障害者保健福祉手帳によって確認されます。なお.このような手帳の交付は申請主義となっているため、いずれも本人が申請を行う必要があります。

なお.このような手帳の交付は申請主義となっているため、いずれも本人が申請を行う必要があります。

1-5: 法定雇用率を達成しなければどうなる?

雇用している障害のある労働者の人数が法定雇用障害者数に達しない場合、ハローワークより障害者雇用率達成指導という行政指導を受けることになります。
まず、翌年1月から2年間にわたる雇入れ計画の作成命令、その後は計画の実施状況が確認されます。実施状況が悪い場合、最終的には企業名が公表されます。(障害者雇用促進法第47条)

1-6: 障害者雇用納付金の支払い義務とは

法定雇用率を満たしておらず、常用労働者100人を超える企業については、不足人数1人につき月額50,000万円を納付する必要があります。(障害者雇用納付金制度
ただし、この納付金は企業間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るためのもので、罰金ではありません。納付金を支払ったとしても障害者の雇用義務は継続することには留意してください。

2. 障害者雇用の現状

現在、このような施策のかいもあり、障害者の雇用は確実に増えています。

厚生労働省の調査によれば、令和元年6月1日時点、民間企業で雇用されている障害者は56万608.5人で過去最高値となっており、17年連続での増加を示しています。
ただし、実雇用率は2.11%と法定雇用率2.2%を若干下回っており、法定雇用率を達成している企業の割合も48.0%にとどまっています。

つまり、半数以上の企業は障害者を雇用、納付金を支払う選択しているのです。

しかし、今後も法定雇用率が段階的に引き上げられること、コンプライアンスや企業の社会的責任(CSR)といった観点からしますと、障害者雇用は決しておろそかにしてよいものではないということは認識が必要です。

3. 障害者の法定雇用率をクリアするためには

とはいえ、ただでさえ雇用が難しい企業もあるこの時期に、法定雇用率のクリアは難しい場合もあるでしょう。そこで、法定雇用率を満たすために事業者ができることを3つ取り上げてみます。

3-1: 仕事ありきで考えてみる

障害者の雇用率がなかなか上がらない理由のひとつとしてよく聞かれるのが、「障害者にまかせられる仕事がない」というものです。しかし、障害者とされる方の中には、他の労働者と同様またはそれ以上の技量をもっている方が多くいます。
たとえば、プログラミングやデザインなど特別な技能を持つ方もいれば、記憶力が非常にすぐれている方もいます。ですから、障害者という事実ありきで考えるよりも、仕事ありきで考え求人を出すことで、良い出会いが生まれる場合があります。

3-2: 特例子会社制度の利用

特例子会社において、一括して障害を持つ労働者を雇用する方法もあります。
特例子会社とは、障害者の雇用に特別の配慮をした子会社のことで、一定の要件を満たせばその子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして障害者雇用率の算定に入れられます。大手企業では、法定雇用率を満たすことを目的に特例子会社を設立するケースが多く、令和元年6月の時点で517の特例子会社が存在します。

3-3:「みなし雇用」導入を望む声も

様々な理由から障害者を自社で雇用することが難しい企業からは、「みなし雇用制度」の導入を望む声が聞かれます。
みなし雇用制度とは、障害者の就労支援をする福祉作業所や在宅就業支援団体などに、一定額以上の業務を発注した場合には、それを実雇用率に換算できる仕組みのことです。障害者の雇用が難しい企業にとっては、障害者雇用に代えて障害者の自立を支援するという責務を果たすことができる制度になりますが、いまだ導入には至っていません。
厚生労働省が発表している「「福祉から雇用へ」推進5か年計画」やノーマライゼーションの観点から見ると、本来であれば雇用するべきという考えがあるからです。
しかし、現在、中小企業が支払った納付金が、雇用率を満たすためにとりあえずの雇用をしている大企業への障害者雇用調整金に流れている実態を是正するためにも、みなし雇用の導入は積極的に検討されていく見込みです。

4. 合理的配慮のポイント

平成28年に施行された改正障害者雇用促進法では、働く障害者への合理的配慮を行うことを企業に義務づける「合理的配慮の提供義務」が規定されました。
合理的配慮とは、障害のある人とない人の就労機会や待遇を平等に確保し、障害者が能力を発揮する上で支障となっている状況を改善したり、調整したりすることです。なお、対象となる事業者の規模や業種は制限されておらず、すべての事業者が対象となります。

4-1: 行うべき合理的配慮

障害者雇用促進法第36条の2では、障害者を採用・雇用するにあたっては障害者の障害の特性に配慮した措置を講じることと定められています。ただし、その措置は「事業主に対して過度な負担を及ぼすこととなるときには、この限りではない。」とされています。
具体的には、

の6点から、過度な負担がかかると判断される措置は無理に行う必要はありません。

4-2: 合理的配慮の進め方

合理的配慮は、障害者から企業に対して配慮を申し出て、これを企業が検討することから始まります。大まかな流れを確認しましょう。

  • ① 障害者から企業に対し、職場でしてほしい配慮を申し出る
    …多くは募集や採用のタイミングで行うが、支障を感じた場合には雇用後にも行うことができる。
  • ② 合理的配慮の内容を話し合う
    …当事者である障害者と企業は、どのような配慮を提供するかについて話し合い、検討します。障害者本人からうまく聴き取りが行えない場合には、支援機関の担当者に同席してもらうことも考えます。
  • ③ 同僚にも障害の特性と配慮の内容を伝える
    …ともに働く上司や同僚には、障害の特性と配慮の内容を伝えておきます。その際、障害に関する詳細や伝える対象については、障害者本人と打ち合わせを行います。
  • ④ 対応できない内容については説明を行う
    …過度の負担となる配慮については、見送りとする可能性があります。そのような場合には、対応が難しい理由を障害者本人に説明する必要があります。

4-3: 合理的配慮の例

実施される配慮の例
  • 聴覚や言語に障害者には筆談で面接する
  • 視覚障害者に対しては展示や音声などで採用試験をする
  • 車いすの方に高さの調節できる机を用意する
  • 精神障害者に対し、出退勤時刻・休暇・休憩に関して配慮する

合理的配慮については、申し出てもらうばかりではなく、申出をしなかった障害者に対しては企業側から質問をすることで希望を聞き取ることも、リスク管理としては有効と考えられます。

障害者と接したことのない経営者や人事担当者にとって、障害者雇用はハードルが高いと感じるでしょうし、同僚となる従業員へのケアも気がかりでしょう。しかし、CSRSDGsの観点からも障害者雇用は避けて通れないものになりつつあります。
障害者雇用を行うにあたっては、新たな労務管理方法や就業規則の整備が必要な場合がありますので、お困りの際は弁護士法人フルサポートの弁護士までご相談ください。

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