多くの場合、何らかの既存の作品に似た作品が作り出されたとき「著作権」が話題に上ります。
しかし、例えば絵画とコンピュータプログラムの著作権は、全く同じように守られるでしょうか?
答えは「NO」です。以下では、プログラムに関する著作権について解説いたします。
プログラムの著作権
プログラムの著作物性をめぐって
著作権の客体である著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されています。
「ソフトウェア自体は人間が記述するもの」ですが、前述の定義に該当するといえるかどうか……その点が長らく議論されていました。
定義に該当しなければ、コンピュータプログラムの全てを著作権法で保護することはできません。
保護に値するものであることに認識の相違はなかったのですが、その根拠法として、文部省は著作権法を、通商産業省は特許法の特別法を主張して、立法方策に関する意見が割れていたのです。
そのような論争の最中、『スペース・インベーダー・パートⅡ事件』の判決が言い渡されることになりました。ビデオゲームのプログラムに関して、司法が著作権法による保護を採用したのです。
これが大きな転換点となり、改正法より、コンピュータプログラムは著作権法上の著作物として認められることになりました。
著作権法10条に具体的な項目が列挙されているのですが、1985年改正法より、ここにプログラムが追加されています。
プログラム特有の扱いについて
規定が拡大される項目
公衆送信権
公衆送信権は、著作財産権のひとつとして保護されています。
著作権法2条1項7号の2において、公衆送信とは「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信または有線電気通信の送信を行うこと」をいうとされており、例えば、インターネット上に著作権者の許可を得ず著作物が配信された場合などが、公衆送信権違反が疑われる典型的な事例になります。
ただし、同条において、この公衆通信に該当しないとされているのが「同一構内で行われる公衆通信」です。つまり、社内のコンピュータを使用して社内のネットワーク上に著作物を配信したとしても、それはLAN内での出来事ですので、原則として公衆送信権の侵害とはなりません。
ところが、この著作物がプログラムであった場合には事情が異なります。
プログラムは、同一構内であっても送信を認めてしまうと、同時に、多数のコンピュータがそのプログラムを使用することを認めてしまうことになります。しかし、そのように使用されることを捕捉する他の著作権は存在しません。
よって、このような不都合を回避するため、著作物がプログラムである場合にはその送信がたとえ同一構内であったとしても、公衆送信に該当する=公衆送信権侵害となる、としています。
規定が制限される項目
同一性保持権
同一性保持権は、著作者人格権のひとつで、著作者がその著作物の同一性を保持する権利であり、よって意に反した改変を拒否できるとされています。
しかし、プログラムはその性質上、バージョンアップに代表されるような「改変」によって不具合の修正や機能の向上が達成されるものであり、そのような場合にまで著作者の同一性保持権を保護しようとするのはかえってプログラムの利益を失しており好ましくない状態といえます。
そこで、著作権法第20条2項3号では、「①特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又は②プログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変」には、同一性保持権を適用しないこととしています。
①に該当する改変には、プログラムの誤りを修正すること・使用したい機種に対してプログラムを適応させるよう修正することなどが該当します。
②に該当する改変には、処理能力を向上させるための修正・新しく機能を追加したり、より目的に合った処理を行うことができるようにしたりする修正などが該当します。
これらを踏まえると、結論として著作者の「同一性保持権」が及ぶ改変の範囲は極めて限定的で、例えば、故意に著作権者の信用を落とすなど悪質なものに帰結することになるでしょう。
複製権・翻案権
複製権・翻案権はどちらも著作財産権に分類される権利で「著作物について複製する権利・翻案する権利を占有すること」がその内容になっています。
しかし、著作権者にこのような権利が認められている一方で、通常想定される方法によってプログラムを利用するにあたって複製・翻案は少なからず必要となる工程であり、そのような範囲にまで著作権を及ぼすことは社会的な利益を妨げていると考えられます。
そこで、著作権法では、プログラムの複製物の所有者(パッケージソフトウェアの購入者など)は、一定の条件の下その複製・翻案を行うことが認められています。
具体的には、「①複製物の所有者による自己使用で、②電子計算機において利用するために必要と認められる限度」における複製・翻案です。注意すべき点を以下にまとめます。
①複製物の所有者による自己使用
→複製物の「貸与」を受けている場合は該当しません。
→また、「他人使用(他人にプログラムを使用させるため)」の複製、同一社内で複数台の電子計算機に使用させようとする場合の複製は認められません。
②電子計算機において利用するために必要と認められる限度
→IC測定プログラム著作権侵害事件(大阪地裁平成12年12月26日判決)によれば、『「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要な限度」とは、バックアップ用複製、コンピュータを利用する過程において必然的に生ずる複製、記憶媒体の変換のための複製、自己の使用目的に合わせるための複製等に限られており、当該プログラムを素材として利用して、個別のプログラムを作成することまでは含まれない』と判断されています。
加えて、もう一点留意すべき点が、プログラムの複製物の所有権を滅失以外の理由で失った場合の対応です。
この場合には、著作権者の別段の意思表示がない限り、その複製物を保存しておくことはできません。これは、仮に保存しておくことができるとすれば、複製物を売買・譲渡した場合にも、手元に残った複製物を使用できてしまうという不都合が生じるためです。
このような場合に複製物を保存すると、いよいよ複製権を侵害したということになってしまいます。
プログラムの著作権者
権利があれば権利者がいます。
著作権に関しては、登録など特別の手続きは必要ありませんので、通常は、著作物が創作された時点で、その著作物を創作した著作者が広義の著作権を享有します。
職務著作としてのプログラム
では、従業員が職務中に作成したプログラムはどうなるのでしょうか。
この点、特許権では、一度、発明の完成と同時に、発明した従業員(自然人)に権利が原始的に帰属することになっています。
他方、著作権法は、職務著作(従業員が職務上作成する著作物)については、法人その他の使用者を原始的な著作者とし、使用者が著作権と著作者人格権の双方を取得する、と定めています。
この規定に該当する著作物を「職務著作」といい、該当するための要件は原則以下の4つです。
①法人その他使用者の発意に基づき創作された著作物であること
②業務に従事する者が創作したこと
③職務上作成した創作物であること
④法人等が自己の著作の名義のもとに公表するもの
以上の4つの要件を満たす著作物に関しては、原始的に法人が著作権者となるということになります。
ただし、著作物がプログラムである場合には特別の扱いが認められており、④法人等が自己の著作の名義のもとに公表するもの、の要件は不要とされています。
というのも、「コンピュータプログラム等は公表することが本来予定されていないものである。」と考えられていますので、その性質に鑑み、著作権法の加重要件ではあるものの例外的に1985年改正で要件から外したのです。
このように、プログラムに関しては「会社の発案で、従業員が、仕事として」創作したものであれば、当然に法人が著作権者として認められることになります。
ただし、これは職務著作に該当する場合であっても、著作権・著作者人格権を使用者ではなく従業員に帰属するという旨の当事者間の定めを妨げるものではありません。よって、作成における契約や就業規則において、広義の著作権を従業員に帰属させるという条項を盛り込んでおくことも可能です。
複数人で創作した著作物
プログラムを創作するにあたって、複数人で作業を行った場合、著作権は誰に帰属するのでしょうか。
まず、完成した著作物が、分離して利用できるものになっている場合には、これを「結合著作物」といい、著作権は著作を担当した各人がその部分に対して権利を有する形になります。
プログラムについては、実行したとき各動作が分かれているような性質の場合にはこの結合著作物の考え方が適用される余地があるでしょう。
では、不可分一体のプログラムを複数人で創作した場合、権利の帰属はどうなるでしょうか。
著作権法では、複数人の者が共同して創作し、その結果としての作品に対する寄与を分離したり、個別的に利用したりできないものを「共同著作物」といいます。この場合、著作権は各著作者が共有することとなります。
各人の持分は特段の自由のない限り民法に則り平等とされ、その持分については譲渡等も可能になります。ただし、著作権法は著作権が無体の財産権であるという特色から、共同著作物の持分を譲渡等の方法で処分する場合には、他の著作者の同意を必要としている点では注意が必要です。
さらに、権利の処分だけではなく行使についても全員の合意が必要とされていますので、仮に他の著作権者の同意なく行われた無効な譲渡によって取得した著作権を、譲受人が利用した場合、他の著作権者に対する関係では、著作権侵害ということになってしまいます。
このように、複数人が著作物の創作に携わる場合、権利関係が複雑になりがちです。よって、職務として複数人のチームがプログラム開発を行う場合などは、特段の事情がなければ、職務著作として会社に著作権を帰属させた方がトラブルの回避につながるでしょう。
作成を委託したプログラム
プログラムについては、委託契約を結び、開発者にいわゆるオーダーメードのプログラムを作成してもらうことということも多いでしょう。
そのような場合、作成されたプログラムの著作権は一体、委託者と受託者(開発者)どちらが持つことになるのでしょうか。
このような場合、プログラムの著作権は原則、受託者である開発者が持つことになります。これは、著作権のうち著作者人格権が、著作物を作り出した時点で著作者に生じることからも当然の結果です。
よって、委託者がプログラムの著作権を得たい場合(一般的にはそうでしょう)は、まず委託契約の締結時に「委託者の委託により、受託者が作成したプログラムについて、当該プログラムの著作権は委託者に譲渡する」という趣旨の条項を盛り込む必要があります。
また、著作者人格権、翻訳・翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利については、譲渡する旨の記載がない限り譲渡されないものとされていますので、委託契約の契約時には、単に「著作権」とするのではなくこれらの項目についても契約書に明記する必要があります。