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面接官はAI?-HRテックによる人手不足の解消

HRテック

「HRテック」とは、HR(ヒューマン・リソース)とテクノロジーを組み合わせた造語です。人事関連業務において、AIやクラウドなどの情報技術を活用して、問題解決や業務改善を図るソリューションやサービスを指します。

近年、人事分野へのIT導入として脚光を浴びているHRテックは、実に様々な場面で活用されています。従業員の採用から、配置転換、体調の把握、更には退職と各場面において目的に応じた技術が開発されており、次々と企業に活用されています。

採用とHRテック

労働力確保がどんどん難しくなっている昨今、企業が力を入れたいセクションの1つは「採用」でしょう。会社は、「できるだけ多くの候補者の中から、できるだけ優秀な人材を採用したい」と考えることは当然のことです。

大規模に募集をかけ応募者が集まるほど扱わなくてはならない情報量は増えていきます。しかし、「採用」に割くことができる人員は限られています。新卒採用に加え、中途採用を行う場合や、外部からの紹介も受けようとした場合には更に負担が大きくなります。

従来は、このような膨大なデータをExcelでまとめるなどといったデジタル化がされていましたが、膨大なデータを採用のフェーズごとに手作業で入力し直すなど、結果的にかなりの労力を要していました。
また、応募者が増えるということは、書類選考や面接など採用そのものの業務も当然増えることになります。

採用業務と一口に言ってもそのフェーズごとに求められる機能は多岐に渡り、日々急速に多様なHRテックが誕生・普及しています。ここからは、目的ごとに注目したいHRテックについて、ピックアップして見ていきます。

採用プロセスの情報管理とHRテック

現在、日本電産は、経営計画で掲げる「売上高の増加」に向けて「人材の強化」を図っています。「人材の強化」といえば、従業員の教育も重要でしょうが、やはり「質のいい人材」の取得がその主な手法となります。

同社は、従前、採用にあたって年間1000人を超える応募者の情報を、Exelや手書きの書類で管理していました。管理する情報は、応募者1人に対して1つではなく、応募者のプロフィール・面接日程の調整・採用の進捗状況・面接の結果など、その量は膨大なものでした。当然、情報管理に必要な事務作業の時間は相当なものでした。

そして、事務作業に時間が必要ということは、さらに大きな弊害を生んでいました。応募から内定までの採用にかかる平均所要日数が他社よりも長くなってしまうことです。つまり、選考中に他者から内定を得た応募者に、辞退されてしまうという事態が発生していたのです。
そこで、同社は、採用プロセスの情報に関して「HRMOS採用管理」というクラウドサービスの利用を開始しました。

クラウドサービスの利用

「クラウドサービス」とは、ユーザーがサービスの所在を気にすることなく利用できる雲のようなイメージから名付けられたと言われています。
クラウドが普及していなかった頃には、アプリケーションやファイルは各デバイスに入れておかなければ利用できませんでしたが、クラウドの発達により別のデバイスが持つものをインターネット経由で利用できるようになりました。

「HRMOS採用管理」は、そのようなクラウドの仕組みにより、採用に関連する膨大な情報を一元管理し、共有することができます。
例えば、面接を担当する管理職や面接官などにアカウントを配布し、面接結果などの情報を直接データベースに記入して人事部に共有するようにしておけば、人事部が面接官に面接結果を聞き取りに行くというような手間をカットでき大幅な時間短縮につながります。この結果、現在、日本電産は「同業他社より1週間以上早く内定を出せるように」なったそうです。同社は人材の確保で、他社より一歩リードしたと言えるでしょう。

また、社内の体制も変化しました。リクルーターは6人から3人に、平均残業時間は34時間から16時間と大幅な短縮につながったのです。積極的なITツールの導入は、効率化を促進し、社員の労働環境をも改善する力を秘めています。

求人票作りとHRテック

採用業務の始まりは「求人票作り」ではないでしょう。
そして、求人票は採用の成否を大きく左右します。求人票は、自社がどのような人材を求めているのか、また自社のアピールポイントはどのような所なのかを示す大事な書類です。
採用された人材は同僚になるわけですから、求人票の作成には、なるべく多くの関連社員の意見を反映させたいところでしょう。しかし、求人票作りの際に従業員に意見を求めても、「求人票の作成なんて人事の仕事」「日々自分の業務に忙しいのに答えるのは面倒」などと、のれんに腕押し、という状況は珍しいものではないはずです。

Retty株式会社は、ここにHRテックを導入しました。会社全体での求人票作成に一役買ったのは、同じクラウドサービスでも、ソースコード共有の「GitHub」です。

エンジニアによる求人票作成

Gitとは、従来から存在するバージョン管理システムの一種で、プロジェクトの改訂履歴を管理して保存するものです。主にソースコードの共有・改訂に利用されるわけですが、実はWordなどどんなタイプのファイルにも対応しています。
中でも「GitHub」の注目機能はforkingと呼ばれるもので、あるファイルないしプロジェクトのオリジナルを各々がコピーして、改変を加えることができます。オリジナルに改変させたい場合にはオリジナルを保有するメンテナーにプルリクエストを送り、OKが出されれば反映されるという仕組みです。

ソースコード共有に利用されるクラウドサービスということもあり、特にエンジニアには馴染み深いシステムです。Rettyの事例では、これまで求人票に対してコメントを求めてもつれなかったエンジニアが、「GitHub」を利用して求人票を公開した途端にアイディアを投稿するようになったと言います。

普段はPCに向かって業務をこなす時間が長く、採用活動とは無縁なようにも思われるエンジニアとも、機転を利かせたITツールの利用ひとつでこのように繋がることができます。社員にとっても、採用活動に参加したというのは、企業づくりに関わることができたと感じることにも繋がりますし、自分が参加した採用活動によって採用された社員には親近感も湧くでしょう。使い方次第では、人の間にITが介入することで、さらに人の繋がりを強めることもできるのです。

書類選考や面接もAI担当

ここまでのHRテックは、「人間の補佐」の域を抜けないものと言えるでしょう。ここからは、もう少し「人間の代わり」の傾向が強いように感じる事例です。

近年は、単なる情報の処理や共有ではなく、書類選考や面接など、採用業務の根幹をAIに担わせる企業も現れています。
これまでは、人間がエントリーシートや面接による応募者の選別や評価を行っていました。そこで課題となっていたのが「効率化」「公平性の確保」です。
大きな企業や人気の高い企業ほど、当然、応募者は多く、採用業務には膨大な時間と労力を要していました。また、ある程度は採用基準に従って選別を行っていても、数百・数千に及ぶ応募に対して、完全に公平性を保てていたとはいえませんでした。

この部分にもHRテックが切り込んだことにより、今後の採用は効率化・迅速化が図られるとともに、採用・不採用の判断も公平性を保つことが可能になるとされています。さらに活用が進めば、職務と人材のミスマッチを防ぐことまでも可能になって行く見通しまでも立っています。

「AIを制すものが世界を制す」と述べたことで有名な孫正義会長兼社長のソフトバンクグループは、採用にもいち早くAIを取り入れています。
2017年、ソフトバンクは米IBMのAI「ワトソン」をエントリーシートの自動判定に導入しました。1年で約3万件にも上るエントリーに、人間だけで対応するにはどんなに束になってかかったとしても限界があります。同社はワトソンを導入したことにより、第一次選考に係る時間は約75%も削減でき、大幅な「効率化」に成功しています。現在はまだ不合格に分類されたエントリーシートも担当者が再チェックをしていますが、担当者は完全に自動化しても良いと感じているほど「公平性の確保」も図れているようです。

もっとも、AIが判定を行うためには事前に判断材料となる情報を「学習」させる必要があります。よって、「どのような情報を学習させれば、こちらが望むような判断基準を備えてくれるのか」を考える必要があります。つまり、採用そのものをAIに行わせるには、導入する企業側にもそれ相応の知識は求められることになります。

ソフトバンクでは、2019年度の採用から、学生のオープンデータ上の行動パターンや、実際に応募する学生の傾向値などのデータを結び付けた分析も始めており「採用担当者AI」にそれらのデータをどのように学習させていくのか、注目が高まります。

AI採用に対する反応

書類選考や面接をAIが行う、AI採用については、選考される応募者側からも賛否両論であるのが現状です。

転職支援をメインに人材紹介サービスを行うワークポートが2019年3月22日に発表した調査結果によると、全国の転職希望者300人を対象に行った調査で「採用活動にAIを導入する際。どの段階までが適切だと思うか」に対する回答は「書類選考まで」が半数を超える56%、「導入するべきではない」という回答も15.3%にのぼっています。
効率化や公平性の確保に関して肯定的な意見もある中、実際に会うことや対話を重視するべきという意見も見られました。また、「機械に判断されるのは嫌だ」という心情的な反対意見も出ており、AIに対する信頼度の難しさが垣間見られます。

一方、先に紹介したソフトバンクグループでのAI採用の導入には「どんな分野でもITを使っている会社って面白い」という肯定的な反応が目立ったといいます。AI採用が応募者に受け入れられるかどうかは、企業のカラーによる影響も大きいでしょう。

企業は、自社が対象としたい応募者が、「AIを始めとするITに対してどのような認識を持っているか・持ってほしいか」ということを見極めなくてはなりません。AI採用はハードルが高いとしても、その他の情報管理を行い、業務の効率化を実現してくれるITツールは多数存在します。様々な企業の例も参考に検討しながら自社の需要に合った「HRテック」を見つけていくと良いでしょう。

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