「コロナ禍を切り抜ける知識と実務」と題しまして開催しております無料WEBセミナーの第2部「整理解雇」全3回が、先日8月11日をもって終了いたしました。ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。
今回は、セミナー内で頂いた質問とその回答を、掲載させて頂こうと思います。
Q1.戻る可能性のない転籍出向も整理解雇のうちになるでしょうか?
A .ならない。
解雇がこれだけの制限を受けるのは、労働者が生活の糧を失うことになる手続だからと言えるでしょう。それを踏まえますと、戻る可能性がなかったとしても、転籍と解雇は一段階次元の違う話になります。
ただし、本人の合意なく転籍の人事を行うことは望ましくありません。原則は、本人の合意を得て行うべきです。
Q2.無期で雇用しているパートタイマーも非正規社員として扱って良いか?
A .一般的な正社員との比較では、非正規社員として扱うことができる。
まず、この質問にお答えするには、「正社員」の範囲が問題となります。「非正規社員」は、「正社員」以外の社員と説明されることが多いですが、そもそも、「正社員とはどのような社員か」について、明確な法律による定義はないからです。
ただし、実務上は「無期雇用」かつ「フルタイム」の労働者を正社員として扱うことが多く、かつ労働者にもそのような認識があることが一般的です。よって、「無期雇用」でも「パートタイマー」である場合には、原則、非正規社員の括りとして扱うことができるでしょう。
しかし、「無期雇用」の「パートタイマー」を非正規社員として、優先的に整理解雇できるかとなりますと、少し配慮することが必要です。「無期雇用」というのは、有期雇用との比較では、それなりに雇用継続すなわち解雇されないことへの期待が高いと考えられます。無期パートタイマーの整理解雇は、正社員(無期フルタイマー)に次ぐ難易度となり、一定の配慮が必要とお考え下さい。
なお、「整理解雇」においての解雇のしやすさは、以上のとおり「無期雇用<有期雇用」となりますが、「普通」解雇の場合にはこれが逆転し「有期雇用<無期雇用」となることがあります。これは、有期雇用では原則として、雇用期間満了後に雇止めが可能であるということの反射効果です。詳しくは、「第3部 有期雇用の雇止めセミナー」で解説いたしますので、ぜひご参加ください。
Q3.遠隔地の事業所を廃止するにあたって、全員解雇せざるを得ない場合の注意点は?
A .他事業所での雇用によって、解雇を回避できる可能性がないかという点が問題になりえます。
セミナー内で、「整理解雇回避の努力」についてご説明した中に、「配転等による余剰人員の吸収」という手法を挙げさせていただきました。
ご質問のケースでの注意点はこれに該当します。事業所自体を廃止する場合、事業所内での配転は不可能ですから、考慮するとすれば「他事業所での雇用によって余剰人員を吸収する余地はないか」という点になります。
Q4.会社が倒産してしまうかどうかという時点まで、整理解雇は我慢しなければいけないのでしょうか?
A .裁判という基準ではどこまで行けば整理解雇もやむなしと判断されるのか計りかねる部分ではありますが、私は倒産させないことが最も優先される事項だと考えます。
裁判実務という点からお答えしますと、倒産間近という会社と解雇無効を徹底的に争ってまで「会社に戻りたい」という労働者はいないですので、この場合には早期に金銭での和解が行われてしまうケースが多く見られます。よって、倒産が見えているような会社で行われる整理解雇の有効性が、どの程度厳しく判断されるのかについては、裁判例は集積されておらず、掴み切れていないのが現実です。
ただし、私の見解としましては「倒産してしまっては元も子もない」ですから、当然、倒産してしまう前に整理解雇を行う必要があると思います。裁判所も不可能を強いる判断は控えるはずですから、経営状況が芳しくない場合の整理解雇は有効に認められると考えています。ただし、その場合にも「合理的な基準」で人員整理をすることと、労働者や労働組合に対する丁寧な説明は行いましょう。
Q5.士業の立場でクライアントに助言する場合にも、4要件をベースにした方が良いか?
A .ケースバイケースですが、4要件をベースにお伝えする方が安全ではあるでしょう。
近時は4要素説が主流ではありますが、4要件説も依然として根強いです。したがって4要件説が嘘という訳ではありません。また、4要件の方が厳格な判断になるため、整理解雇を行うに当たっては、4要件説の考えに従った方が安全ではあります。
よって、先生方がクライアントの経営者様に指導助言される場合には4要件をベースにし、個別具体的な事例に対する先生方の判断としては4要素を念頭に行ってもらうなど、ケースバイケースでの使い方をお勧めします。
なお、実務上最も大切なのは4要件か4要素かという考え方よりも、4つの要素について検討した結果を確実に従業員に伝えておくことです。そのためには詳細な「書面」が有効となります。
Q6.希望退職を申し出た従業員に対し、退職を認めないことは可能か?
A .可能です。
希望退職の募集をした際、退職を申し出た従業員に対し、退職を認めないことは可能とされています。ただし、このように退職を認めたくない従業員がいる場合には、募集要項に「なお、会社が認めた者に限る」などの留保をつけておくことが必要です。
希望退職というのは、会社側と従業員の間で退職の希望が合致した場合に「上乗せ条件を受け取って退職する」という機会を従業員に与えているに過ぎません。
よって、希望退職による退職の申出を認めないことは、従業員が有している会社を辞める(辞職する)権利を制限していることにはなりません。
Q7.希望退職を募集する前には、事前に個別面談をしなくてはならないか?
A .必要ありません。
希望退職の募集というのは、あくまで広く呼びかけを行うに過ぎません。よって、この呼びかけを行うにあたって、個別の面談を行う必要はありません。
寧ろ、従業員に対して個別に「ぜひこの制度を利用してほしい」「この希望退職によって退職しなかった場合には解雇となる」等の発言をしてしまった場合には、従業員の選択の自由を奪ったとして「解雇」とみなされてしまうことになりますので注意してください。
Q8.解雇について争う場合は民事でしょうか?
A .大きな括りで言えば民事です。
解雇を裁判所で争う場合には、「民事訴訟」か「労働審判」を使うことになります。判決を求めて争われる場合、金銭による賠償を求める訴訟か従業員としての地位を確認する「民事訴訟」になります。
また、「民事訴訟」よりも迅速な解決を求める手続として「労働審判」が用意されています。
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私のセミナーでは、人員整理の手続きを3段階に分けています。
第1段階が「希望退職」、第2段階が「退職勧奨」、第3段階が「整理解雇」です。
そして、「出来る限り解雇は避けるべき」であり希望退職・退職勧奨の段階で終わらせるようにしましょうとお伝えしてきました。
そこで次のような質問をいただきます。「解雇は難しい、できる限り行うべきではないとしても、会社が倒産するかどうかという崖っぷちまで整理解雇は我慢しなければならないか?」というものです。
実はこれ、順番が違います。崖っぷち倒産寸前まで我慢するから、整理解雇しかできなくなるのです。希望退職・退職勧奨という最初の2段階は、早いうちにしか選択できない手段です。なぜなら、経営に余裕が無くなってきた場合、希望退職を募って希望者を待つ時間が無くなり、さらには退職にあたって退職金を余分に支払うための資金も無くなるので、退職してもらうために提示できる条件がなくなってしまうからです。
つまり、時機を逸してしまうと、希望退職・退職勧奨という本来踏むべきステップを踏むことができず、いきなり整理解雇をしなくてはならない…整理解雇すらその高いハードルに阻まれて、倒産まっしぐらという最悪のシチュエーションすら見えてきます。
決して当事務所は解雇を勧めるわけではありません。しかし、倒産になった場合には、従業員全員が職を失うという最悪の事態になってしまいます。これは誰にとっても最悪な結果です。
経営者の方は、常に先のことをしっかりと見据えておられる方ばかりかと思います。なればこそ、会社を守るために厳しい選択が必要な場合もあることは十分にご理解いただいているはずです。打つべき時には、打つべき一手を打つのも経営者の責任です。
「今がその時なのか、判断に自信がない」「何とかしなくてはいけないと思うが方法が分からない」そのような場合には、当事務所にご相談ください。最善の方法とタイミングを探すお手伝いをいたします。
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