愛知県での新型コロナウイルスの感染者80人となり、全国で2番目と言われているようです(2020年3月9日)。
当事務所でも、名古屋市内などの顧問先企業から、新型コロナウイルスへの対応について問い合わせをいただいております。

企業としては、噂に流されて過度な対応をするのではなく、常に正確で正しい情報を入手しながら、「従業員を守るべく適切な対応をしていくこと」が必要とアドバイスしています。

以下では、現時点での情報と、考えられる対応をまとめました。

新型コロナウイルスの感染力

新型コロナウイルスの感染力の強さは、まだ定説はないようです。
多くの人に感染したと疑われる事例がある一方で、多くの事例では感染者は周囲の人にほとんど感染させていないようです。

過度におそれる必要はないでしょうが、社員に対する安全配慮義務を持っている会社としては、会社内で急速に広まる可能性も考慮して、感染拡大の措置をとることが重要です。

現段階で考えられている感染ルート

新型コロナウイルスは、飛沫感染、接触感染で感染していると考えられているようです。他方、空気感染は起きていないと考えられているようです。

飛沫感染…感染者の飛沫(くしゃみや、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出されます。他の者が、これを吸い込むことで感染します。

接触感染…感染者が自身の飛沫を触った手で周りの物に触れるとウイルスが物につきます。他の者が、これを触れた手で口や鼻などの粘膜を触れることで感染します。

新型コロナウイルスの感染を防ぐために企業ができること

このような感染ルートからすると、手洗いの徹底や、咳エチケットの実施が重要と考えられています。

咳エチケット…咳やくしゃみをする際は、マスクやティッシュ、ハンカチによって口や鼻をおさえること

したがって、社員が外回りから帰ってきたときは手洗いを徹底させることや、ある程度、密閉された部屋での面談時にはマスクをすることなどの対策が考えられます。
また、時差通勤の導入という対策もあります。これは、始業時間や就業時間を、電車が渋滞する時間を避けるものです。もっとも、労働条件を変更することになりますので、労使間での同意は必要となります。

新型コロナウイルスの症状と対応

発熱やのどの痛み、咳が長引くこと(1週間前後)が多く、倦怠感を訴える方が多いようです。

目安として、風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合は注意が必要です。このような場合は、最寄りの保健所などに設置されている「帰国者・接触者相談センター」に問合せることが、厚生労働省から勧められています。

社内の従業員に対して、以上の「目安」と「問い合わせ先」を周知しましょう。正しい情報を従業員に知らせることも企業に求められる対応の1つです。

新型コロナウイルスと休業手当について

新型コロナウイルスに感染した従業員

従業員を休業させた場合、「使用者の責に帰すべき事由による休業(労基法26条)」に該当するかが問題となります。
もし、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合は、会社は、休業期間中の休業手当(平均賃金の60%以上)を支払う必要が生じます。

この点、2020年2月1日付けで、新型コロナウイルス感染症は、「指定感染症」として定められました。これにより、都道府県知事は、新型コロナウイルスに感染した者に対して、就業制限や入院の勧告等を行うことができるようになりました。

したがいまして、通常は、新型コロナウイルスへの感染が認められた従業員は、都道府県知事により、勤務が禁止されることになります。この場合、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しませんので、会社は休業手当を支払う必要はありません。

なお、従業員は、被雇用者保険に加入しており、受給要件を満たしていれば、傷病手当金の支給を受けることが可能です。

新型コロナウイルスの感染の疑いがある場合

実務上、問題となりえるのは、「感染の疑い」がある者を休ませるときです。
会社側の自主的な判断によって休ませる場合は、法的には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるおそれもあります。

この点、まずは疑いがある従業員には、病院の診察を受けさせたり、「帰国者・接触者相談センター」の意見を聞いたりして、医学的な指示を受けるべきでしょう。専門家から、感染の疑いを肯定され、休業を勧められた場合は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらず、休業手当を支払わなくてもよいでしょう。

なお、感染の疑いが生じた段階で、(他の病気が原因かもしれませんが、)何らかの症状は出ているでしょうから、要件を満たせば傷病手当を受けることは可能でしょう。

就業規則の整備

新型コロナウイルスや新型インフルエンザなどの感染力の強い病気に対して、企業はいかなる措置をとるべきかは、あらかじめ決めておくべきです。
その際、後に、いかなる措置をとるべきかで迷ったり、争いになったりしないように、以下のような就業規則を作っておくことをお勧めします。

就業規則例

1 会社は、次の各号のいずれかに該当する従業員については、就業を禁止する。
① 病毒伝播のおそれのある伝染性の疾病にかかった者
② 新型コロナウイルス及び新型インフルエンザにかかった者及びその疑いのある者
③ ……

2 前項の就業禁止の間は無給とする。

新型コロナウイルスや新型インフルエンザについては、新型であるかどうかが未確定のまま、治療をなされるのが通常のようです。そこで、「疑い」も含むことを就業規則で明確にしておきますと、混乱を防ぐことができます。

就業規則は、社内のルールブックです。就業規則を古いままにしておきますと、新たな社会情勢や、労働法の改正に対応できるルールがないおそれがあります。就業規則は定期的にしっかりと見直しをすることをお勧めします。

まとめ

もっとも、以上はあくまで法律家として、「休業手当」の法律的な論点に主眼をおいた話です。

顧問弁護士として企業にアドバイスする際は、「感染の疑いが生じた場合は休業手当の有無よりも、同従業員の健康を守ること、そして他の従業員を守ることを何よりも第一に考えて動いてください。」と伝えています。

従業員の健康を第一に考えて、迅速・柔軟な対応をすることが、企業や経営者には求められていることは言うまでもありません。
そのような企業や経営者にこそ、従業員はついてきてくれるでしょう。

再スタートのための法人破産・個人破産

業種によっては,コロナウイルスによる影響は甚大なものです。
社員への給与を支払えるうちに,一度,事業をたたむことの相談を受けることもあります。
その場合は,追い込まれて動けなくなる前に,お早めに御相談に来て下さい。当事務所がお力になります。

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