2020年にスマホで法人設立が可能に?

内閣府は2019年7月18日、マイナポータル(政府が運営する、マイナンバー制度を基にしたオンラインサービス)に申請API1.0ドラフト版を追加し、仕様を公開しています。まず当面の目的は法人設立後の行政手続きをワンストップ化することで、見通し不十分ではありますが2020年度内には、設立登記までを含む法人設立全般をワンストップでこなせるようバージョンアップが計画されています。
電子政府がまた一歩進みそうです。

マイナポータル申請APIの公開

APIとは、ソフトウェアやアプリケーションの一部を、使い方を記した仕様書とともに外部へ公開し、第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにする窓口のようなものです。これを利用すれば、異なるソフトウェア間で、認証機能やチャット機能などを共有できるようになります。
今回の、内閣府によるマイナポータル申請API公開にあたっても、「システム利用者において使い勝手の良い製品やシステムの提供が期待されます」と述べており、民間システムとの連携が期待されています。同APIを利用することによって、現段階では法人設立後の社会保険や税金の手続きを一括申請することができるオンラインサービスを提供できるようになるはずです。

法人設立に必要な手続

法人を設立した場合、設立登記後に必要となる手続きには例えば以下のようなものが挙げられます。早いものでは5日以内に提出することが求められる書類もあり、提出先も各分野で分かれていましたので、事業主としては非常にあわただしく動くことを強いられていました。

マイナポータル申請APIの役割

しかし、今回の連携により、マイナポータル申請APIを利用してオンラインで情報を一括申請できるようになれば、事業者には大幅な時間的余裕が生まれ、担当機関は受付を簡便に済ませることができます。
企業が行う従業員の社会保険・税手続の オンライン・ワンストップ化等の推進に係る 課題の最終整理(2019 年(平成 31 年)4 月 18 日 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)


企業が行う従業員の社会保険・税手続の オンライン・ワンストップ化等の推進に係る 課題の最終整理
(2019 年(平成 31 年)4月18日 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)

また、2020年4月からは新たに、「マイナポータル」と経済産業省管轄の「gBizID(法人認証基盤)」を連携させることとしています。実現すれば、公的個人認証サービス(JPKI)に加えて、法人番号を活用したgBizIDのIDとパスワードが、マイナポータル申請で利用できるようになります。

これにより、個人が法人を設立しようとする場合に限らず、法人がgBizIDを用いて行っていた「国税電子申告・納税システム」や「地方税ポータルシステム」などのオンライン申請が、マイナポータル申請APIに紐付けされ一括して受け付けられるようになるのです。
gBizIDも、事業者に対して複数の制度がそれぞれ発行していたIDやパスワードをひとつにまとめようとする趣旨のシステムなので、マイナポータル申請とは親和性の高い制度と言えるでしょう。

マイナポータルが解決する問題

また、連携範囲のみならず、ワンストップの質も向上し、「コネクテッド・ワンストップ」が実現する見込みです。これは、企業が1度オンライン申請などに際して提出した情報を、行政機関の間で共有できるようにするもので、いわゆる「横の繋がり」を生み出そうというものです。
これが機能する仕組みが完成することによって、例えば社会保険未加入事業者の問題などは大きく改善されるのではないでしょうか。

厚生労働省は長らく、社会保険の未適用事業者に対する適用促進に力を入れています。これまで、社会保険適用の可能性のある事業所を把握するにあたっては、H14年から「雇用保険適用事業者情報」、H24年から「法人登記簿情報」、H27年から「国税庁の法人事業所の情報」と、各機関から提供を受ける形であり非効率的でした。

ワンスオンリー

しかし、コネクテッド・ワンストップによって各機関で情報を共有できれば、定期的な各年の納税や新規採用に係る労働保険関係に関して、場合によっては法人登記の段階から蓄積された情報を一括で参照することができます。前年との比較も容易にできるようになり、促進政策の助けになります。
さらに技術が発展すれば、わざわざ加入指導を行うまでもなく、適用対象事業者には自動的に保険加入手続きが行われるようになるかもしれません。

以上の流れを、内閣府は「フェーズ1」として位置付けています。
「フェーズ2」では、企業が業務に使用しているクラウドサービスを利用し、行政機関もそこへアクセスすることで情報を参照できる「ワンスオンリー」という仕組みを構想しています。もはや情報をわざわざ提出する必要もありませんから、ワンストップとも言えないほどの画期的なものになります。

双方向の利用

また、この仕組みを利用すれば、企業から行政機関への流れだけでなく、行政機関から企業や従業員へ情報を流すことも可能になります。例えば、現在は企業が従業員へ通知している税金関係の通知などを、行政機関から従業員へクラウドを通じて直接通知できるようになれば、大幅な業務削減につながるでしょう。
ただし、情報を参照するにあたって、クラウドを直接参照するか、一度マイナポータルを経由させるかについては検討中となっています。仮にクラウドを直接参照する仕様になった場合、そのクラウド内には企業が通常業務に関連して保有している他の情報が多く存在することになるでしょうから、それらの情報に対してのセキュリティについて考えなくてはなりません。個人情報保護法の、3年ごとの見直し事項に加えるなどの必要も出てきそうです。

マイナポータル申請が広がる可能性

ちなみに、企業を設立する際のマイナポータル申請APIを利用するには、マイナンバーカードの内臓ICチップに搭載した公的個人認証サービス(JPKI)を利用しなくてはなりません。現在、このJPKIを読み取る方法は二つで、PCに接続したICカードリーダーの利用またはカードの読み取りに対応したAndroidスマホのどちらかが必要でした。
それがこの2019年秋、iPhoneで可能になります。読み取りに対応した新バージョンのiOSのアップデートをすれば良いということで、アップデート率が気になるところです。

マイナポータルは日本経済回復の救世主となるか

環境省や内閣府 経済社会総合研究所も見解を示している通り、日本経済の課題の一つに企業の開廃業率の低さが挙げられます。中小企業白書2019年版によると、2017年時点での先進国の開業率は“仏13.2% 英13.1% 独6.7%”に対して、“日5.9%”、廃業率も日本が最も低く3.5%となっています。開廃業率を上げることは、市場の新陳代謝を上げ経済を活発化させるにあたって非常に重要です。

2006年の会社法改正で新設された「合同会社」もインパクトの強いものでしたが、今回、オンラインでのワンストップ化が図られ企業設立の手続きそのものが簡便になることで、開業率を上昇させることができれば、「マイナポータル申請API」が日本経済回復の救世主となるかもしれません。