今回は、民法改正の中でも、企業間の取引で特に注意すべき「契約不適合責任」について取り上げ、詳しく解説します。
2017年5月に改正された民法が、2020年4月1日から全面的に施行されました。この改正民法では、120年ぶりに債権法の部分が約200項目にわたり大幅に見直された結果,表現や概念にも重大な変更が生じています。

1.契約不適合責任における改正ポイント

これまで民法では,主に売買契約において,買主の受け取った目的物に何らかの不具合があることを「瑕疵」と表現して,一定の条件を満たす状況でこの「瑕疵」があった場合,売主は瑕疵担保責任を負うとされていました。

しかし,この度の改正によって,分かりやすい民法とする観点から「瑕疵」という表現は削除されました。
そこで,代わりに用いられることとなったのが「契約不適合」という概念です。
この「契約不適合」は,従来の「瑕疵」と何が異なるのか,また瑕疵担保責任はどうなるのか,以下で解説していきます。

1-1:契約不適合とは

民法改正によって,「瑕疵」の代わりに用いられることとなったのが「契約の内容に適合しないもの」という表現です。これを,「契約不適合」といいます。

実は,この表現は必ずしも新しい表現ではなく,すでに判例(最判H22.6.1/H25.3.22)が示していた瑕疵の解釈に基づいています。
つまり,判例では以前より,「契約の内容」を重視して瑕疵を判断していました。しかし,「瑕疵」という単語が独り歩きしてしまい,契約の内容に関わらず客観的に傷などの不具合があればすべて売主が担保責任を負うという誤解を招くおそれがあったため,新法では「契約の内容に適合しない」と端的に明示されるに至ったということです。

1-2:瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

旧民法570条
売買の目的物に隠れた瑕疵があった時は,第566条の規定を準用する。(以下略)

このように,旧民法において「瑕疵担保責任」が問われるのは「隠れた瑕疵」がある場合のみとなっていました。このため,瑕疵担保責任は法定責任(法律が定めた特別な責任)であるという見方が有力でした。
しかし,今回の改正でこの担保責任の性質は契約責任と整理され,既述のとおり,瑕疵は契約不適合と改められました。そして,「瑕疵担保責任」の名前は「契約不適合責任」と変更されて,その結果幾つかの変更が生じることとなりました。

①「隠れた」が削除された

今回の民法改正で契約不適合責任という新たな概念ができたことで,「隠れた瑕疵」という表現が削除されました。「瑕疵」は上記のとおり契約不適合と言い換えられたわけですが,「隠れた」に対応する表記はありません。
従来の「隠れた」は「買主の善意無過失」を要求する文言とされていましたが,改正後は隠れていたかどうかは論点とはならず,あくまで目的物が契約の内容に適合していたかによって売主の責任が判断されます。

②適用対象の範囲

〈目的物の種類〉
改正前においては,瑕疵担保責任の対象は特定物に限るとされていました。しかし,特定物と不特定物とで取扱いに大きな差を設けることが最近の取引実態に即していないことから,改正によって特定物・不特定物を問わず,契約不適合責任の規定が適用されることとなりました。

〈瑕疵の種類〉
改正前に瑕疵担保の対象となっていた瑕疵は隠れたものでなければならなかった「契約締結時までに生じていたもの」に限られていました。改正後は,「契約の履行時までに生じたもの」に対して契約不適合責任を負うとされています。

2.契約不適合で買主が請求できることは?

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民法改正では,契約不適合責任を契約責任と整理するとともに,契約不適合があった際に買主が取り得る救済手段を改めて整備しました。

2-1:買主が取り得る手段

契約不適合があることが明らかになった場合,買主はこれまでの損害賠償・解除に加えて,追完請求,それがかなわない場合には代金減額請求を行うことができます。
請求の流れは次のようになります。

契約不適合請求の流れ

①追完請求

旧民法下では,瑕疵があった場合,買主が修補や代替物の引き渡しなどを請求できるのかが明記されていませんでした。
そこで,買主が取り得る手段をすべて明確にすべく,契約不適合があった場合には特定物・不特定物にかかわらず,目的物の修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しの請求を認める「買主の追完請求権」が定められることとなりました。

562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の補修,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課すものでないときは,買主が請求した方法を異なる方法による履行の追完をすることができる。

追完方法については,原則,買主の選択に委ねられています。ただし,買主に不相当な負担を課すものでないときは,売主が異なる方法で履行の追完をすることが可能です(ただし書)

②代金減額請求

追完の催告が必要であれば催告を経ても履行が完了しなかった場合,不要であれば契約不適合があった場合,次の段階として買主は契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。

563条(買主の代金減額請求権)

1 前条第1項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完が無い時は,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主が同行の催告をすることなく直ちに代金の減額を請求することができる。

  • ① 履行の追完が不能
  • ② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示
  • ③ 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないが期間を徒過した
  • ④ 追完の催告をしても,追完される見込みがないことが明白

旧民法には,代金の減額請求に関する規定はありませんでした。
しかし,買主は売主から完璧な目的物の引渡しを受けることを前提に代金を支払うため,品質や数量などに契約不適合がある場合には代金もその分減額されるのは当然であり,改正によってこのような規定が設けられました。
ただし,契約不適合となった責任が買主側にある場合には,買主は代金の減額請求をすることができませんので注意が必要です(同3項)。

〖ポイント〗

上記の追完請求及び代金減額請求は,従来から認められていた損害賠償及び解除の権利を妨げるものではありません。(564条)
債務不履行による損害賠償(415条)及び解除(541条・542条)は一般的な債務不履行による請求権であり,追完請求や代金減額請求とは全く独立したものとして考えます。

③解除

一般の債務不履行の規定に従い,契約不適合があったとき買主は売主に対して契約を解除できます。
旧民法における解除は,瑕疵担保責任に基づく解除であったため「契約をした目的を達することができないとき」(旧566条)という制限が付されていました。しかし,現行民法によって債務不履行の一般規則によるものと統一された結果,「契約目的を達成できないとまでは言えないが不履行の程度が軽微ではないとき」にも解除が認められることとなりました。したがって,解除が認められる範囲は広がったと言えます。

④損害賠償

解除と同様,損害賠償も一般の債務不履行の規定に従うことになりました。
これによって,買主が損害賠償請求をするには,旧民法下では不要であった売主の帰責事由が必要となりました。
売主は,「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責に帰することができない事由によるものであるとき」には賠償責任を免除されます。

ただし,同時に「損害賠償の範囲」が変更されていることには注意が必要です。
旧民法では,契約が有効であると信じたために生じた利益(信頼利益)までが賠償範囲とされていましたが,改正民法では契約内容が履行されていたら得られたであろう利益(履行利益)までが賠償範囲とされました。

3.買主側はいつまで権利を行使できるのか

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契約不適合があった場合,買主には以上の権利が認められているわけですが,これらの権利を行使するにあたって,「期限」はどう定められているのでしょうか。
これについては,種類・品質に関する契約不適合と,数量・権利に関する契約不適合で扱いが異なっています。

3-1:旧民法下の権利行使

旧民法では,瑕疵担保責任に基づく契約の解除又は損害賠償請求には,「瑕疵があることを知った時から1年以内」という制限が設けられていました。
また,買主はこの期間内で,「売主に対して具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の根拠を示す」ことまでが要求されていました。

3-2:種類・品質の契約不適合の場合

買主が契約不適合を知ったときから1年以内にその旨を売主に通知しなければ、契約不適合責任を追及する権利を失うとされています。
「通知」とは,不適合の種類・範囲を告げることで足りるとされており,実際の権利の行使までは求められていません。
ただし,不適合の存在について売主の悪意又は重大な過失があった場合には,この通知は不要となります。(第566条)

3-3:数量・権利の契約不適合の場合

数量や権利の契約不適合には566条の規定は適用されず,特別の期間制限は規定されていません。よって,消滅時効の一般規定(第166条第1項)に従うこととなります。

つまり、数量や権利の不適合の場合には,権利を行使することができることを知った時から5年以内、知らなくても権利を行使することができる時から10年以内というのが期間制限になります。

瑕疵担保責任,改め契約不適合責任は,契約書の中でも、非常に重要な事項のひとつです。民法改正によって,これらの定義や考え方が変わったことで、今後は契約内容の見直しや文言修正が必要になる場合もあるでしょう。
今後の新規作成に加え,契約書は定期的に修正,リーガルチェックを行うことが必須です。民法が大きく変更されたこの機会に,一度,弁護士に相談されることをおすすめします。