新型コロナウイルスの感染拡大により,海外では輸出入の大幅な規制が行われる事態が発生しました。そのために,サプライチェーンが断絶して材料などが海外から入ってこなくなり,製造現場や建設現場で作業の進行に支障をきたすケースが散見されました。
この記事をご覧になっている方の中には,商品や仕事の納品が遅れ、トラブルになってしまったという方もいらっしゃるかもしれません。

このように、新型コロナウイルス感染拡大によって契約内容どおりの履行ができなくなってしまったとき、債務者はその責任を問われるのでしょうか。

 

1. 債務不履行責任とは

契約当事者が契約に定めた義務を果たせなかった場合,これを「債務不履行」といいます。まず,コロナ禍の影響に限定せず,そもそも「債務不履行とは何か」について知っておきましょう。

 

1-1: 債務不履行の3つの類型

債務不履行には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つのパターンがあります。

履行遅滞

「履行遅滞」とは,履行が可能であるのに履行期を徒過した場合をいいます。

  • (要件)
  • ・債務が履行期に履行可能なこと
  • ・履行期を徒過したこと
  • ・履行しないことが違法であること
履行不能

「履行不能」とは,債務の履行が不可能な場合です。

  • (要件)
  • ・契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断
  • ・物理的不能に限定されない
    e.g. 不動産の売主が目的物を第三者に譲渡して移転登記した場合
不完全履行

「不完全履行」とは、契約上の給付水準に満たない不完全な給付があった場合です。

  • (要件)
  • ・履行遅滞,履行不能のいずれにも含まれないもの
    e.g. 不動産の売主が目的物を第三者に譲渡して移転登記した場合
    履行家庭において債権者の一般的法益に損害を与えた場合
    目的物の瑕疵が原因となって拡大損害が生じた場合

 

1-2: 債務不履行に陥った場合どうなるか?

損害賠償責任

上記のような債務不履行に陥ってしまった場合,債務者は債権者に対して債務不履行責任を負うことになります。主に発生するのが,債務不履行によって債権者側に生じた損害を賠償する損害賠償責任です。
詳しくはこちらをご覧ください。
https://kigyou-fullsupport.com/media/column/column-1078/

契約解除

また,債権者側としては,契約を解除するという選択肢もあります。
この解除には,催告を要するものと要さないものがありますが,かくして契約が解除されると,その効果として契約上の債権債務は初めに遡及して消滅します。つまり,履行されている債務がある場合は,原状回復義務が生じます。
ただし,債権者を保護するため,この解除権を行使しても損害賠償請求権は存続することとしています。(第545条第4項)
https://kigyou-fullsupport.com/media/column/column-1128/

 

2. 新型コロナウイルスと契約責任

corona

新型コロナウイルスの感染拡大による債務不履行の中には,契約当事者ではどうすることもできない場合もあるでしょう。このような場合,契約責任がいかに扱われるかについてみていきます。

 

2-1: 不可抗力とは

当事者ではどうすることもできない事柄が発生した場合に備えて,企業間の契約書には多くの場合,不可抗力免責条項が規定されています。

同条項で具体的に新型コロナウイルス感染症が不可抗力として定められていればよいですが,定められていない場合や「その他不可抗力事由が生じた場合」と包括的に定められている場合には,新型コロナウイルスが不可抗力に該当するかどうかを判断しなくてはなりません。

不可抗力は,明確な定義こそありませんが,概ね次の基準で判断されます。

  • ・人の力による支配・統制を観念することができる現象(自然現象・社会現象)かどうか
  • ・外部から生じた原因であり,かつ予防のために相当の注意をしても防止できないかどうか

今回の新型コロナウイルスの感染拡大が不可抗力にあたるかどうかも,同様の観点から判断されることになります。

 

2₋2: 不可抗力と免責

ただし,新型コロナウイルスの感染拡大が不可抗力事由である=債務不履行責任が免責されるという訳ではありません。
免責が認められるには,その不可抗力と債務不履行の発生との間に因果関係が必要です。

〈因果関係が認められやすいケース〉

  • ・新型コロナウイルス感染症の拡大によって工場が全く機能しなくなった
  • ・海外の一拠点からしか入手できない部材が新型コロナウイルスの影響で輸入できなくなり入手不能となってしまった

〈因果関係が薄れるケース〉

  • ・部材の値段は多少上がったが,入手は問題なくできる状況であった
  • ・債務を履行するために別の手段を選択する余地があった

以上のように,債務者が新型コロナウイルスの影響を受けていても債務の履行が可能な場合には,一概にその債務不履行が不可抗力によるとは評価されません。
履行するのが本来なのですから,不可抗力免責条項の上にあぐらをかくことが許されないのは当然でしょう。

 

2-3: 帰責事由とは

契約書に不可抗力免責条項がない場合は,民法に基づいた判断がされることとなります。ここで検討されるのが,「帰責事由」の有無です。

民法では,債務不履行について債務者に帰責事由がなければ損害賠償請求はできないとされています。
帰責事由とは,平たく言えば「債務者の落ち度」ということなのですが,落ち度かどうかの判断基準は過去の裁判例によって一定の枠組みができています。

帰責事由の判断基準

  • ・契約の内容や締結までの経緯,取引上の社会通念等を踏まえながら,問題の障害となる事象について契約締結時において想定できたか
  • ・債務者において,債務不履行を回避する努力が尽くされたか

 

2₋4: 帰責事由と免責

新型コロナウイルスに関して言えば,この感染症の拡大を事前に想定することができたとは言えないので,賠償責任が免除される余地があります。
ただし,例えば部材の仕入れ先を変更する・リモートワークを活用する等の代替措置を講じることにより解決できるものである場合は,その努力が適切になされていないとみなされれば帰責事由あり,すなわち「賠償責任あり」と判断されることになります。
なお,この帰責事由については,債務者が帰責事由がないことを主張立証しなくてはなりません。

※ ※ 民法は令和2年4月1日に改正法が施行されており,施行日より前に締結した契約については旧民法の規定が適用されることになるが,帰責事由については改正前後で実務上の取扱いは変化していないため,同様の取扱いとなる。

 

2₋5: 契約の解除

契約の解除については,民法改正によって取扱いが変更となりました。

旧民法下では,帰責事由の無い債務不履行については債権者側からの契約解除は認められていません。よって,契約を解除するには,合意解除を試みる必要があります。

一方,2020年4月1日以降の契約においては,契約が履行不能ないしはそれに準ずる状態となった時には,債務者の帰責事由の有無に関係なく契約の解除が可能となりました。
ただし,「(債権者側が履行を催告した)相当の期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には,契約解除ができないこともあることに注意が必要です。(同541条ただし書)

 

〖参考〗国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)

昭和55年にウィーンで採択され、本邦では平成21年8月21日に発効した「国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)」という条約があります。「ウィーン売買条約」とも呼ばれるこの条約は、当事者の権利義務や契約の成立について規定されており、外国同士の企業間での売買契約に適用されるものです。

この条約には、以下の2つの場合には、自己の支配を超える障害によって債務不履行が生じたときには免責されるとしています。

  • その障害が契約締結時には考慮に入れることができなかったこと
  • 債務者側に障害又はその結果の回避・克服を合理的に期待できないこと

この規定は、異なる国同士の売買取引であれば、契約上にこの条約を除外する規定がない限り、無条件に適用されます。この条約の考え方は、新型コロナウイルス感染拡大による債務不履行責任の有無を検討する際の一助になるのはないでしょうか。

 

3. 公的要請と休業

感染拡大の傾向がみられた令和2年4月,7都道府県に緊急事態宣言が発出され,その後その範囲が全国に拡大しました。
また,パチンコ店やライブハウスなど,一部の業種では各都道府県知事による休業要請があわせて発出されていました。このような公的要請による休業での債務者の責任はどのようになるのでしょうか。

 

3-1: 事業継続が要請されている場合

緊急事態宣言下でも,医療・介護から運送業や小売業まで,生活必需品を扱う業種やライフラインに欠かせない業種を中心に政府や自治体からは事業継続要請が出ていました。
事業継続要請があるにもかかわらず,感染拡大防止を理由に自主的に休業し,それによって債務不履行に陥った場合は,取引先に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

 

3-2: 休業要請がされている場合

日本で発令される各自粛要請は,新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいており,今のところ罰則等を伴う法的強制力はありません。よって,要請に従ったために債務を履行できなかったとしても,その債務不履行に関しては帰責事由があると判断される可能性もあります。
しかし,要請に従わなかった場合には企業名が公表されますので,これにより一定程度の強制力を確保していると認められます。また,感染拡大防止のための自粛は社会的要請であり社会的利益がある行為である事を考えると,帰責事由なしと判断される可能性も否めないグレーゾーンです。
よって,自粛要請に伴う債務不履行に就いての帰責事由は,一義的には判断されず,自粛要請下であっても履行を優先させることが,契約の内容や趣旨,性質に沿うのかどうかがケースバイケースで判断される
ことになるでしょう。

ウィズコロナの時代が訪れつつありますが,法律的にこの感染症による影響をどう処理していくかについては,いまだ,専門家の中でも統一見解はありません。
そのため,新型コロナウイルス感染拡大の影響で債務不履行に陥った場合に免責されるかどうかは,個別具体的な事情を鑑みて判断されることになるでしょう。

また,今後はこのような感染症の拡大等も視野に入れての契約書作成が会社を守る肝となります。現在,債務不履行でお困りの事業者の方,今後に向けてどのように契約書を整えれば良いか迷っていらっしゃる方は,ぜひ,フルサポートの弁護士までご相談ください。