企業の活動のなかでは、大小含めかなりの数の契約を行いますが、そこで重要となるのが契約時に交わす契約書です。契約書は、契約に関わる責任の範囲を決めることで、「会社を守る」重要な書類です。
ところが、日本では契約書の重要性が認識されておらず、誰が作ったかも定かではないような、「できあい」の契約書が使いまわされていることがあります。このような契約書は、弁護士の目から見ると、矛盾する条項、曖昧な条項、極端に不利な条項などが記載されていることがあります。
本来、「会社を守る」ための契約書が、「トラブルの火薬庫」となっていることさえ珍しくはありません。
ここでは、契約書の役割や起こりうるトラブルについて解説します。
契約書の役割
契約書を作成するにあたっては、なぜ契約書を交わさなければいけないのかを正しく理解しなくてはなりません。契約書は口約束だけでなく、「交わした契約の内容」を文書に残すことで、契約内容の証拠として残すものです。そこには、取引条件に対し各当事者が履行すべき事項の確認や、万が一予定通りに履行されなかった場合の責任負担に関する事項なども定めておくことで、後の紛争を防止する目的があります。
契約書トラブル
契約書に不備があった場合、予定していた取引が行われず、後に訴訟などの法的トラブルに発展するリスクがあります。どのような不備が考えられるのか、確認していきます。
契約書の不備
誤字・脱字
最も初歩的なミスですが、契約内容の根幹に関わる部分で誤字・脱字があれば契約内容そのものが変わってしまう恐れがあります。例えば、目的物を「甲」と記載すべきところ「乙」と記載してしまった、発注商品数を記載した部分で数字の桁数を間違えてしまった、という場合が考えられます。
「誤字・脱字」であることについて相手方も同じ認識でしたら、相手方と同意の上で修正するか、契約書を作成しなおせばよいでしょう。しかし、相手方が現在の内容こそが合意内容だと思っていた場合には、修正は著しく困難となります。
自社の管理体制への信頼にも影響してきますので、このような単純なミスにも十分注意が必要です。
記載内容のあいまいさ
柔軟性のある契約内容にしておこうとした結果、契約内容についての表現があいまいになっている場合があります。「相当程度の」「相応と見込まれる」などの表現です。弁護士が作成する場合でも、このような文言をあえて使うこともありますが、契約を左右するような根幹部分に使うことは避けています。基準が不明瞭であり、後にその具体的な内容について争いになる可能性があるからです。
法律用語の間違い
法律の世界では、日常では使わない用語が使われています。このため、法律用語が誤用されて契約書が作成されていることがあります。こうなりますと、本来、想定していた契約の内容とは異なる契約書になっているおそれがあります。
条項間の矛盾
ネットや本から拾ってきた条項を切り貼りして作ったためと思われますが、契約書内で矛盾した内容が定められていることがあります。せっかく契約書で定めた内容も、矛盾した条項が存在することで、無効となるおそれがあります。
極端に不利な条項
自由競争主義の社会では、自社に有利な条項を契約書に織り込もうとすることは当然のことです。
しかし、1つ1つの条項を精査せずに契約をしてしまう会社も多いのではないでしょうか。「契約トラブルが起きてから、改めて契約内容をチェックしたところ、自社にとって極端に不利な条項が含まれていたことに気づいた。」という相談を受けることがあります。例えば、損害賠償額が限定されている、強い競業避止義務が課せられている、成果物の保障がないなどです。
不利な条項が織り込まれていないかを契約前に精査することが不可欠です。
契約書の訂正
契約書の不備の次に問題となるのが、不備の訂正方法です。契約書とは、当事者間の合意を形にしたものですから、その内容を訂正も確実に当事者の合意の下で、合意して行ったことが客観的に見て分かるように行わなければなりません。
よって、契約書の内容を訂正する場合には一定のルールに従うことが一般的です。
具体的には、訂正箇所を二重線で引き、訂正印を押して余白部分に修正文言を追記します。さらに、削除の文字数や追記の文字数も入れておくなど、細かい作業も必要になります。また、相手方にも押印をしてもらうことも重要です。当事者双方が訂正箇所を確認し了承した、という証拠となります。
契約書のリーガルチェック
リーガルチェックとは、弁護士などの専門家に契約書の内容に法的な穴がないかをチェックしてもらうことです。リーガルチェックを行うことには次のようなメリットがあります。
自分の意思に合致した契約書の内容となっているか確認できる
法的に正確な契約書を作成するにあたって難しいポイントとして、言葉遣いが挙げられます。図らずも、意味が何通りにも取れるあいまいな表現になってしまっているケースはまま見受けられますし、最悪の場合には自分の意志と反する内容を記載してしまっているということもあります。
このような点を、法律のスペシャリストである弁護士によるチェックを行うことで、正しく確実に自分の意志を反映させた契約書にすることができます。
契約内容の見落としなどが発見できる
特に、後の紛争を防止するのに有効な条項を盛り込むことができます。弁護士は、紛争解決に関しての実務経験を多く持っていますので、紛争に発展する可能性のある個所を見抜き、事前に法的なアドバイスを行うことが可能です。
まとめ
実際にトラブルに発展してしまってからでは、目的としていた契約に基づく事業に支障が出ることによる損失に加えて、解決に大きな費用や労力を要するケースも少なくありません。
リスク管理の一環として、契約書を作成する段階で、弁護士による法的なチェックを受けることをおすすめします。