令和元年12月27日に改正育児・介護休業法施行規則及び改正指針が公布・告示されました。この改正により、令和3年1月1日からは、育児や介護を行う労働者が、子の看護休暇や親の介護休暇などを時間単位で取得できるようになります。
労働者が、ワークライフバランスを保ちながら多様な働き方を求める時代においては、育児や介護に対する企業からのサポートを含めた福利厚生を整えて、優秀な人材の離職を防ぐかが企業安定の鍵となっています。
育児はもちろん、特に、2025年には今の管理職世代が親の介護で忙しくなり、大量に離職することが懸念されています。

本記事では、改正のポイントを踏まえながら、現在、育児介護休業法で定められているルールについて解説します。

1.育児介護休業法の概要を知っておこう

「育児介護休業法」とは、どのような法律なのでしょうか。まずは、その概要について解説します。

1-1:育児・介護休業法とは

この法律は、育児及び介護休業、看護及び介護休暇に関する制度を設けるとともに、育児及び家族の介護を行いやすくするため、所定労働時間への配慮等事業主が講ずるべき措置を定めています。
これによって、育児や介護と仕事の両立を支援し、退職を防ぐとともに退職した労働者の再就職の促進を図るのがその目的です。

1-2:制度の概要

育児休業制度

育児休業制度とは、原則として1歳に満たない子を養育するためにする休業です。この制度には何段階かの例外があり、条件を満たすことによって、期間の延長が認められます。

① ~1歳2カ月(パパ・ママ育休プラス)

  • 両親がともに育児休業を取得すること
  • 配偶者が子の1歳到達日以前のいずれかの日において育児休業をしていること
  • 制度利用者本人の育児休業開始予定日が、子の1歳の誕生日前であること
  • 制度利用者本人の育児休業開始予定日が、配偶者の育児休業の初日以降であること

この4つの要件を満たしている場合には、最長で、子が1歳2か月になるまで育児休業を延長することができます。これを「パパ・ママ育休プラス」といいます。

② ~1歳6ヵ月

子が1歳に達する日(1歳2カ月に達するまでの育児休業が可能である場合にはその休業終了予定日)において、いずれかの親が育児休業中であり、以下の事情がある場合には、子が1歳6ヵ月に達するまで休業の延長が可能です。

  • 保育所等への入所を希望しているが、入所できない場合
  • 子の養育を行っている配偶者(もう一人の親)であって、1歳以降子を養育する予定であった者が死亡、負傷、疾病等により子を養育することが困難になった場合

また、同様の条件によって最長で2歳までの延長が可能です。

介護休業制度

介護休業制度は、要介護状態にある対象家族を介護するために休業するときに使える制度です。要介護状態とは、負傷や疾病等で2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態をいいます。

対象家族の範囲は、配偶者(事実婚含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹及び孫となっています。以前は、祖父母・兄弟姉妹・孫については同居かつ扶養という条件付でしたが、平成29年1月1日から同条件は廃止となりました。
この休業は、対象家族1人につき最大3回、通算して93日まで、分散して取得することが可能です。

1-3:休暇制度の概要

子の看護休暇制度

子の看護休暇制度とは、小学校就学前の子を養育している労働者に認められる休暇です。
子が1人なら1年に5日、2人以上なら10日まで認められており、病気・怪我の子を看護する場合又は子に予防接種・健康診断を受けさせる場合に取得することができます。
この休暇は、半日単位での取得も可能ですが、労使協定によって半日単位での取得が困難と認められる場合には1日単位の取得になります。また、会社は、同じく労使協定によって所定労働時間の2分の1以下の時間数を半日と定めることもできます。

介護休暇制度

介護休暇制度は、要介護状態の家族のいる労働者が対象家族の介護や世話のために取得できる休暇です。

条件は子の看護休暇制度とよく似ており、対象家族が1人の場合は1年で5日まで、対2人以上の場合は10日まで休暇を取得することができます。また、やはり条件を満たせば半日単位での取得も可能です。ただし、労使協定を締結すれば所定労働時間の2分の1以外の時間数を半日とすることもできます。

1-4:所定外労働・時間外労働・深夜業の制限

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育児・介護休業法では、小学校就学前の子や、要介護状態の家族を介護する労働者が請求した場合には、長時間労働や深夜労働を避けられるよう一定の制限が設けられています。

所定外労働の制限

育児・介護休業法では事業主に対し、3歳未満の子要介護状態の家族をもつ労働者から請求があった場合にはその労働者に所定労働時間を超えて働かせることを制限しています。
1回の請求につき、1か月以上1年以内の期間で所定外労働を制限することが可能で、請求できる回数に制限はありません。

法定時間外労働の制限

小学校就学前の子、あるいは要介護状態の家族のいる労働者が請求した場合は、法定時間外労働を1か月24時間、1年150時間以内に制限しなくてはなりません。
ただし、法定時間外労働とは8時間を超える労働のことをいいますので、たとえば所定労働時間が7時間の場合、1時間残業をしてもこの場合の時間外労働にはカウントされません。
期間と回数については、所定外労働の制限と同じように、1回の請求につき1か月以上1年以内の期間で無制限に請求できます。

深夜業の制限

小学校就学前の子、あるいは要介護状態の家族のいる労働者が請求した場合は、午後10時から翌午前5時までの深夜労働をさせてはならないとされています。
この制限は他と異なり、1か月以上6か月以内の期間で、回数は無制限に請求を行い、深夜労働をしないようにすることが可能です。

なお、所定外労働の制限・法定時間外労働の制限・深夜業の制限の3つとも、事業の正常な運転の妨げになるときは、事業主は請求を拒むことが例外的に許されています。

1-5:短時間勤務の措置など

①育児関係

3歳未満の子を養育する労働者であって育児休業を取得していない者に関して、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮する措置を含む措置を講じることとされています。
ここで「含む」とされているのは、所定労働時間を6時間とする措置を設けた上でなら、所定労働時間を7時間にするなど他の措置も設けて労働者の選択肢を増やすのは良いとされているからです。

また、業務の性質や体制上の問題で労働時間の短縮措置を取ることができないと判断された労働者については、以下のいずれかの措置を講じなければなりません。

  • 育児休業に関する制度に準ずる措置
  • フレックスタイム制の適用
  • 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)
  • 企業内保育所の設置やこれに準ずる便宜の供与
②介護関係

常時介護を要する対象家族のいる労働者については、介護をしている家族1人につき利用開始から3年以上の期間で2回以上、次のいずれかの措置を利用できるようにしなければなりません。

  • 所定労働時間を短縮する制度
  • フレックスタイム制度
  • 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)
  • 労働者が利用する介護サービスにかかる費用の助成その他これに準ずる制度

なお、この短縮措置の期間中に、介護休業をはさむこともできます。また、2回以上で利用できる制度設計をしていれば、労働者が望む場合には3年間一連で制度を利用することもできます。

1-6:会社の講じるべきその他の措置

ここまでに挙げた制度を運用するにあたって、会社が併せて講じるべき措置は次のとおりです。

不利益取り扱いの禁止

育児・介護に関する制度を申請又は取得したことを理由とする、解雇やその他の不利益な取扱いは禁止されており、そのような意思表示は無効とされます。
不利益とされる取扱いが、育児・介護に関する制度を利用したことを理由とするものかどうかは、時間的な近接性(おおよそ1年以内)で判断されますが、人事異動や人事考課など定期的に行われるものについては、1年以上が経過していても関連があると判断される場合があります。
また、不利益取扱いの禁止については、その実効性を確保するための施策も追ってなされました。例えば、各都道府県労働局長による紛争解決のための援助及び調整委員による調停の制度、さらに、勧告に従わない会社名の公表や、虚偽報告に対する20万円以下の過料などが設けられています。

2.育児介護休業法の改正ポイント(平成29年10月1日~)

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この10年ほどは、介護をしながら働く労働者や有期雇用労働者が、育児・介護休業法に定められた制度を利用しやすいよう、定期的な改正が行われてきました。まずは、現在施行されている平成29年10月1日の改正ポイントについて解説します。

2-1:育児休業が最長「2歳まで」取得可能に

育児休業が取得できるのは、原則として子が1歳になるまでとされており、1歳以降も保育園に入れない場合には、1歳6か月になるまで延長が認められていました。
しかし、昨今の入園事情をかんがみて、1歳6か月以降も保育園に入れない場合は、最長で子が2歳になるまで育児休業が再延長できるよう法改正がされました。また、これに伴い、育児休業給付金の給付期間も2歳まで延長となり、子を入園させられないことによる泣く泣くの退職を防ぐ効果が期待されています。

2-2:制度の個別周知に対する努力義務

事業主は、労働者やその配偶者の妊娠・出産を知ったとき、または労働者が介護をしていることを知ったときには、その労働者が利用できる制度を個別に知らせる努力義務を負うことが定められました。
また、これには、単に休業制度を伝えるのみならず、育児・介護と仕事を両立するための制度、すなわち所定労働時間短縮制度やパパ・ママ育休プラスなどの関連制度の周知も含まれていますので、併せてアナウンスするとよいでしょう。

2-3:育児目的休暇制度の導入促進

改正育児介護休業法では、小学校就学前の子を養育する労働者について、育児に関する目的で利用できる休暇制度を設けるよう努力する義務が規定されました。これは、パパ・ママ育休プラスと同様、男性の育児参加を促す目的で促されているものになります。

「育児に関する目的で利用できる休暇制度」とは、たとえば、配偶者の出産前後に取得できる出産休暇や、子どもの入園式・卒園式などの行事参加を見すえた多目的休暇などが考えられます。また、失効年次有給休暇の積み立てによる休暇制度の一環として、この育児目的休暇を設けることも有効です。

3.育児介護休業法の改正ポイント(令和3年1月1日~)

さて、平成29年に改正されたばかりの育児・介護休業法ですが、さらに令和3年1月1日より施行される新たな改正があります。最後に、最新の改正点について、解説します。

3-1:子の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得可能に

来年、令和3年1月1日より、最小で半日単位での取得となっている子の看護休暇と介護休暇が、時間単位で取得可能になります。また、今まで1日の所定労働時間が4時間以下の労働者はこの制度を利用することができませんでしたが、今度の改正によってこの制限が廃止され、すべての労働者が取得できるようになります。今後、会社は、1時間の整数倍の時間数で労働者の希望に応じた休暇を取得させるようにしなくてはなりません。

3-2:注意点

①「中抜け」の扱い

中抜けとは、就業時間の途中で時間単位の休暇を取得する状態です。これについて、法律で求められているのは中抜けなしの休暇ですので、会社の判断によって中抜け形式での休暇取得を認めないことは、違法にはなりません。ただし、厚生労働省は、法を上回る制度として中抜け形式の休暇を認める配慮を求めています。
また、現在の運用が中抜けを認める運用である場合、認めない運用へと切り替えることは労働条件の「不利益変更」にあたりますので、注意が必要です。

②対象除外者の設定

会社は、業務の性質や体制において、時間単位での休暇取得が困難であると判断する場合には、労使協定を締結することによって一部の労働者を制度の対象から除外することも可能です。
ただし、労使協定によって定める「制度の適用が困難な業務」の範囲については、労使間で十分に話し合いを行う必要があります。

どの会社も、慢性的な人材不足に悩まされている昨今ですが、今後は、いっそう人材の偏りが深刻化する可能性があります。

労働者が会社を選ぶ大きな基準の一つは福利厚生です。育児・介護休業法で求められている制度を設けていくことが、ゆくゆくは人材の流出を防ぎ、定着率を高めるための有効な一手となるでしょう。

育児・介護休業法に沿って新たな制度を導入する際には、就業規則やその他規程への明記も必要となります。就業規則等を安易に変えてしまうと、思わぬ法律リスクを生むことにもなりますので、その際にはぜひ一度、法律の専門家である弁護士へご相談ください。