コロナ不況に負けない経営知識Webセミナー 第3部「有期雇用の雇止め」に各日ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
ここでは、セミナー内でお寄せいただきましたご質問と、その回答をまとめました。セミナーに参加していない方にとっても、「雇止め」の理解に役立つかと思います。

Q1.有期雇用労働者の雇用期間途中の解雇は、通常の解雇よりハードルが高いということか?

A .はい。一般的には、無期雇用労働者より有期雇用労働者の解雇の方が難しいとされています。

解雇や雇止めを制限することで法律が保護しようとしているのは、労働者が持つ雇用継続に対する期待です。よって、労働者が持つ期待値が高いものほど、手続のハードルが高いと判断できます。

そこで、「解雇されないことへの期待」を考えてみると、有期雇用労働者は、あくまで「契約期間満了で雇用が終了」が原則ですから、その反射効として「契約期間中は解雇されない」という期待がかなり強くなっています。無期雇用も、終身雇用を前提としているため一定の期待を有していますが、終期が決まっている場合ほどの期待は認められません。
したがって、雇用関係の終了手続の中でも、有期雇用労働者の雇用期間中の解雇は最もハードルが高いと言えるでしょう。

したがって、雇用関係の終了手続の中でも、有期雇用労働者の雇用期間中の解雇は最もハードルが高いと言えるでしょう。

Q2.定年後そのまま雇用している場合、解雇・退職勧奨しか手段がないのか?

A .その通りです。ただし、一般的な解雇に比べて難易度は少し下がります。

定年退職の制度を設けていないまたは、定年退職の制度はあったが定年を超えて雇用を継続してしまっている、という場合には、無期雇用の社員と雇用関係を終了する手続として、解雇あるいは退職勧奨を行うしかありません。

ただし、いわゆる定年となる年齢後、つまりおおよそ65歳以上の労働者の解雇は、若年者の解雇と比べて認められやすくはなっています。

Q3.有期雇用労働者に対して解雇は無理でも、期間満了までに休業してもらうことはできるか?

A .認められます。

休業をするか否か、誰を休業させるかは会社が決めることができます。ただし、「①休業の必要性」と「②休業させる従業員の合理的な人選」は求められるので注意が必要です。

ご質問の場合、休業の必要性が認められる状況であれば(①)、非正規社員から休業させることは認められるでしょう(②)。よって、期間満了までまずは休業をさせ、場合によってはその後の雇止めを検討するという流れで問題ないと考えられます。
なお、有期雇用労働者の中でも特定の者だけを休業させますと、「パワハラ」などの疑いが生じてしまうおそれがありますので、この点は気をつけましょう。

Q4.解雇無効の訴えがなされた場合の解決金の額については、有期雇用の解雇 > 無期雇用の解雇 > 有期雇用の雇止め というイメージで良いか?

A .雇用継続への期待からは、そのとおりでしょう。

Q1でお答えいたしましたように、一般的には、雇用継続への期待の高さは、有期雇用の解雇>無期雇用の解雇>有期雇用の雇止めという順番になっていますので、理屈から言えば、解決金の順番もこのとおりになるでしょう。

もっとも解決金の額は、雇用継続への期待の大きさだけではなく、解雇・雇止め時の違法の大きさ(説明の有無・目的・雇用期間など)や、基本給の額など、様々な要因に影響を受けることになります。額が妥当かは弁護士に相談することをお勧めします。

Q5.コロナ禍で売上げが下がり、現在パート社員には休業してもらっているが、売上げの回復は見込めないので年度末に雇止めを行いたい。円滑に雇止めを行うには、更新への期待を図る「6つの判断要素」に当てはめて考えれば良いか?

A .基本的にはその理解で良いと思います。ただし、経営の悪化を主な理由とする場合には整理解雇の4要素を考慮する

整理解雇も雇止めも、大きな括りでは「人員整理」という手続きであり、保護するのは労働者の雇用への期待です。実務上、具体的に有効性を判断するにあたっては、整理解雇であれば「4要素」、雇止めであれば「6つの判断要素」に考慮事項が細分化されますが、2つが同種の手続きである以上これらは関連し合う関係にあります。よって、手堅く人員整理を行うのであれば「整理解雇の4要素」と「雇止めの6つの判断要素」の全てを網羅することになりますが、これは弁護士の力を借りないと少々難しいかと思います。

ご質問の場合ですと、経営悪化を雇止めの主な理由とすることになりそうですので、その場合には「整理解雇の4要素」も意識されると良いでしょう。ただし、「雇止めの6つの判断要素」で労働者の雇用継続への期待が低いと評価される場合には、4要素も高いレベルで満たしている必要はないでしょう。

Q6.有期雇用労働者の雇止めが有効かどうかの基準は、判例の積み重ねによって明確になるのか?

A .有効性に影響を与える事情の組み合わせ膨大ですので、明確にはなることは期待できないでしょう。

雇止めの無効について、「雇止めの6つの判断要素」として整理いたしましたが、この判断要素に該当する具体的な事情は多種多様です。したがいまして、6つの判断要素に該当する具体的な事情の組み合わせは膨大なものとなります。
そして、雇止めの争いは和解で終わることが多いですので、この膨大な組み合わせに基準を与えるほどの判例の数は期待できないからです。

このような事情がありますので、理屈の上では、判例が積み重なれば明確になる可能性はありますが、実際は難しいでしょう。
なお、弁護士が受任をした場合は、事情の似ている判例・裁判例を探して、それを基に予想を立てることになります。

Q7.パートはあまりトラブルにならないので対策をしてこなかったが、有期雇用で契約するのが良いか?

A .雇用関係の終了時のことのみを考える場合には、有期雇用契約が良いでしょう。

有期雇用は無期雇用に比べて、応募が少ないというデメリットがありましたが、現在(コロナ禍後)の有効求人倍率から見るに、有期雇用であっても労働力を確保することも可能と考えられます。

よって、募集時よりも、雇用関係を終了時点に重きをおくならば、「雇止め」を行うことができる有期雇用契約での募集・契約をすることも良いと考えられます。

Q8.「契約は自動的に更新される」という有期雇用契約は、無期雇用と同等の扱いになるというのは本当か?

A .私は、有期雇用契約が当然に無期雇用にはならないと考えます。

ご質問のような説明をされる先生もいらっしゃいます。しかし、私は、自動更新されたとしても有期契約は有期契約のままであり、直ちに無期契約になるものではない、という解釈を支持しています。

ただし、有期雇用であるという立場を採るにせよ、「雇止め」の可能性を残すには、更新時には自動更新を拒絶する理由がないことを確認することで、更新がなされない可能性があることを明示しておくべきでしょう。

Q9.これまで更新時の手続を行っていなかったが、一度更新手続を行った上で雇止めを行おうとするのは可能か。

A .次回契約更新時の手続や説明次第では、可能となる可能性を高めることはできます。

まず、次回更新時の手続において、「これまで明示していなかったが従来から適用していた基準」を明示するという体で、労働者に対して更新の基準を明示した書面等を交付することで、一定程度、更新への期待を下げることはできるでしょう。
さらに、次回の「雇止め」の有効性を高めるには、その際、「今回は更新という判断になったが、会社の状況を鑑みると次回の更新は難しい」と伝え、その事実に対しての合意書を取っておく方法があります。こうすることによって、労働者に対して次の職を探す時間的猶予を与え、かつ次回更新への期待値を下げることができるからです。
なお、このような手順を踏んだとしても、その他の事情等により雇止めが認められない可能性はあることには十分に留意してください。

Q10.有期雇用者にも試用期間を設け、試用期間後に客観的かつ合理的な理由があれば解雇できるか?

A .試用期間を設けること自体が現実的ではない場合が多いと思われますので、雇止めをお勧めします。

試用期間というのは、無期雇用のような長期雇用を前提として、従業員の適格性を見極めるための会社側の保険期間の役割を果たすものです。

一口に有期雇用といっても、その雇用期間は数ヶ月から数年まで幅広くなっていますので、数ヶ月のような短期間の有期雇用に対して試用期間を設けることは、試用期間を設ける合理性という点で難しいと考えられます。目安としては、少なくとも1年以上の期間を雇用する場合には、短期間の試用期間を設けることも場合によっては認められるという程度でしょう。

よって、ほとんどのケースで、試用期間を設けて本採用を拒絶するよりも、期間満了後に雇止めを行う方が現実的であると言えます。

Q11.時間給労働者用の就業規則に有給休暇、休職、懲戒規定を定めていますが、これらを廃止した場合には不利益変更になるか?

A .なります。

一度定めてしまった規定について廃止する場合は、不利益変更となります。廃止するには、原則、労働者の合意が必要です。

なお、ご質問のような規定が存在したからといって、それのみを理由に直ちに雇止めが無効と判断されるわけではありません。他の事情との総合考慮となります。つきましては、不利益変更の手間やリスクと現状での雇止め無効のリスクを比較し、着手するかどうか判断していただければ良いかと思います。

Q12.パート・アルバイトの従業員と入社時に雇用契約書を交わしていない場合、後から交わしても問題ないか?

A .契約書を交わすことはできますが、内容を変更する場合には労働者への説明を怠らないようにしましょう。

原則としては、契約は合意によって成立します。契約の成立には契約書は必須ではありません。その意味では、契約書は合意が成立したことの証拠に過ぎないのです。したがいまして、契約書に記そうとする契約条件が、これまでの契約条件と同一であれば、「雇用時に成立していた契約(合意)の確認として、書面を作成した。」という説明ができます。これは特に問題はありません。

一方、契約条件を変更する場合は、不利益変更が問題となります。労働者に説明なく、契約書を交わしますと、契約そのものが無効となってしまう恐れもあります。このような場合には労働者への十分な説明と意見聴取を経て、確実に合意を取ってから契約書を作成するようにしましょう。

Q13.試用期間の間は有期雇用契約、1回目の更新で無期雇用契約の正社員とする、という運用は可能でしょうか?

A .有期雇用社員と無期雇用の正社員は、性質が異なるので、契約を結び直すことをお勧めします。

私見では、有期雇用と無期雇用は連続性をもつものではないと考えています。したがいまして、「更新」というよりは、「新しい契約」と捉えるべきと思います。

特に、今後、いわゆる「同一労働同一賃金」が施行されますと、正社員と非正規社員の待遇の違いを説明すべく、「責任の違い」にフォーカスが当てられるようになるでしょう。つまり、無期雇用の正社員と有期雇用社員の違いは、単に雇用期間の違いだけではなくなります。そうなりますと、責任を負いたくないため、有期雇用のままであることを臨む労働者も一定数いるでしょう。

したがいまして、無期雇用契約の正社員とするときには、改めて、労働者に「正社員として契約する意思があるか」を確認したほうがよいかと思います。