「働き方改革」に必要な「意識改革」

いよいよ、働き方改革が本格的な始動を迎えました。
当事務所も、顧問弁護士をしている企業で、働き方改革に備えて多くの取り組みを行いました。

「働き方改革」は、その名前のとおり、「働き方」を変えなければなりません。
顧問先の企業の大きさや、従業員の人数により、具体的な改革の内容は異なりましたが、共通して大切なのは、働き方に対する「意識を改革」していくことです。

以下では、顧問先での制度設計を通じて学んだ、働き方改革を成功させるためのキーポイントを説明いたします。

本当に「働き方改革」していますか?

働き方改革に伴い、ほぼ全ての企業が関心ないしは危機感の下、何らかの取り組みには着手しているように見受けられます。しかし、その多くが「働き方改革」のほんの一面しか捉えることができていないのも事実です。

現状、働き方改革に取り組む企業にとって最も大きな課題は、一言で言えば「残業時間の削減」です。しかし、単に従業員に対して「残業はするな」と命じて定時で退社させ、残業ゼロベースとすれば、それで「働き方改革」が達成されたことになるのでしょうか?

誤った働き方改革

無理矢理に残業時間を禁止しただけでは、「働き方改革」が達成できたとは言えません。
そのような方法で単純に残業時間だけを削減することは非常に危険です。残業していた分の仕事を社外や家に仕持ち帰るようになり、これまで以上に「サービス残業」が深刻化する懸念があるからです。
サービス残業は、いつか残業代請求という形で企業に降りかかってくる危険が高いです。
関連コラム:残業代請求の期間が5年に延長に?-民法改正

あるいは、対価を伴わない労働は、労働者の心と体を疲弊させる危険もあります。労働者をいたずらに疲弊させて、労働者の定着ができない企業は、今後の時代は生き残ることができないでしょう。

また、残業が常態化していた企業では、労働者の納得が得られないままに急に残業を禁止しますと、「残業できず仕事のクオリティに支障が出る。」「定時で帰っても家で何をしていいのか分からない。」「残業代が減って困る。」など労働者に不満や不安を生み出すことさえあります。
労働者には何らメリットを感じさせない制度として、かえって仕事へのモチベーションを下げることになりかねません。

働き方改革の落とし穴

では、上記のような対応はどこが間違っていたのでしょうか?……答えは、「経営者・従業員ともに、働き方・仕事に対する意識が何も変わっていないこと」です。現状の多くの企業で見られる「働き方改革」が、この落とし穴を見落としていることがあります。

カギは意識改革

経営者は、まず「24時間働けません」という前提に立って経営を考えることが求められます。経営者は、長時間労働(残業時間)を誇り、24時間働くことが理想とされた時代は既に終わったことを肝に銘じ、意識を改革していく必要があります。

労働力は限られている

顧問先の社長と話していますと、求める収益から逆算して、労働時間を決めている社長がいます。
しかし、この思考順序ですと、ついつい残業時間が増えがちです。
収益を増加させるには、高収益の商品を作る・設備を整える・作業効率を高める・従業員を増やすなどの選択肢がありますが、一番簡単なのは労働時間(残業時間)を増やすことが簡単だからです。労働時間(残業時間)には「しわ寄せ」が来やすいのです。

このような意識のもとに立てられた経営計画では、労働者に残業が必要なほどのタスクを与えておきながら、残業を禁止するという矛盾した命令を与えることになってしまいます。結果として、出勤簿上の労働時間は減りますが、サービス残業は増えていくことになります。当然、労働者の不満は募っていくことになります。

経営者の意識改革

「働き方改革」により残業時間の削減が求められている今、経営戦略を練るときは、「労働時間は限られていること」を「絶対のルール」ととらえなければなりません。
労働力というリソース(労働者数×労働時間)は限られているのです。
むしろ、限られた労働時間から、「予想売上げを計算する」という経営者の意識改革が必要な場合もあります。

「労働力というリソースが限られていること」を再認識した上で、このリソースを何に向けていくのかという方向性を決めなくてはなりません。ときには、収益の悪い分野からは撤退することも必要でしょう。

労働力というリソースの振り分け方を定めることで、はじめて、具体的な「従業員の目標」や「従業員の評価基準」を決めることができます。

従業員の意識改革

このように、経営者が、従業員に対して、具体的な目標や評価基準を設定し、発表・周知していくことで、従業員の意識を「労働の量(労働時間)」ではなく、「労働の質(成果)」へと誘導することができます。

従業員の目標には、「労働の質(成果)」に関わることを設定するべきです。
そして、従業員の評価基準には、「限られた時間でどれだけ良い仕事ができるか」を評価できる基準を設定することが必要になります。膨大に時間をかけて良い仕事をするのではなく、限られた時間で質の高い仕事をすることに価値がある、ということを社内全体に向けて示すためです。

ワーク・ライフ・バランス

そして次に、今まで仕事中心で「自分のこと」を後回しにさせてしまっていた従業員に、働き方改革によって労働時間が減ることで可能になる様々なライフスタイルをさりげなく提案していくことも有効でしょう。
働き方改革が、従業員にとってもメリットのあるものであると感じてもらう必要があるからです。

社内で以上のような意識改革が浸透すれば、従業員は限られた時間の中で最大限の成果を上げるために効率的な方法を考えるようになるでしょう。労働時間(残業時間)を誇るような企業文化ではなく、仕事を効率的に終わらせて、姓かを上げていくことを誇る企業文化を創り出すのです。
また、仕事の成果に意識が向かうようになれば、仕事以外の時間に得た知識やアイディアが仕事に生かされる可能性も広がります。このようにして、仕事にメリハリが出て、従業員の人生が豊かになる中で、企業としても自然と品質や生産性が向上していくことが期待できます。

これこそが、本来の働き方改革であり、本来のワーク・ライフ・バランスのようにも思われます。

意識改革からはじめる働き方改革

働き方改革の目標には「従業員のワーク・ライフ・バランスを確保すること」が含まれているといわれています。
求められているのは、働き方に対する姿勢の変化です。

経営者と従業員がともに、ライフを充実させるために、ワーク(働き方)に対する意識改革を行っていく。
その中で、数値的な目的、例えば「残業を前提とした長時間労働の是正」なども結果として修正されていく。これこそが、本来の目指すべき姿であると感じます。

以上は理想論ではありますが、意識改革を伴わずに、トップダウン形式で制度の変化のみを押し付けても、従業員の賛成・満足はえられないのも事実です。

さて、自社の改革は、本当の意味での「働き方改革」になっていますか?
軌道修正は一歩でも手前の方が行いやすいものです。企業の経営者は、顧問弁護士や顧問社労士と話し合い、今一度、自社の働き方改革を見つめ直す必要があるかもしれません。