企業法務の中で避けて通ることが難しい問題が「人事労務トラブル」です。ただ、「人事労務トラブル」と一口にいっても具体的にどのようなことがトラブルに発展してしまうのか、明確には分からない、というのが実際のところではないでしょうか。
ここでは、人事労務トラブルについて、内容や原因有効な対策などをまとめて弁護士が解説します。

企業が陥るよくある人事労務トラブルとは?

厚生労働省が公表した「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、相談窓口に寄せられた総合労働相談件数は110万4,758件に上り、そのうち、民事上の個別労働紛争の相談件数は30万5,021件となっています。

相談内容の内訳としては、以下の結果となりました。



第1位…いじめ・嫌がらせ 72,067件(23.6%)
第2位…自己都合退職 38,954件(12.8%)、
第3位…解雇 33,269件(10.9%)

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf 

出典:厚生労働省 「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」

特に注目すべきは、「退職」関連についての相談です。
自己都合退職(12.8%)、解雇(10.9%)、退職勧奨(6.8%)、雇止め(4.7%)、出向・配置転換(3%)を合わせると、相談件数の約4割近くを占めることとなります。

具体的には、労働者側からの退職企業側からの解雇など、互いの意思に反する結果、トラブルに陥ることが多いようです。また、退職に至るまでの経緯や時期退職手続き退職金に関する諸事項などもトラブルの原因となります。

なぜ人事労務トラブルは発生してしまうのか?

それでは、どうしてこのような人事労務トラブルが発生してしまうのでしょうか。
原因の多くは、労働者と企業側の相互に、情報共有が徹底されていないことに尽きます。

企業側からすれば、就業規則を作成さえすればその内容は従業員に周知徹底されていると思いがちです。
しかし、従業員の目線で考えると、長い難解な就業規則を読み込むことはほぼないでしょう。例えば、有給休暇の取得可能日数など、必要な部分のみをかいつまんで読んでいることが大半です。そのため、就業規則の内容について、「知っていて当然」という企業側と、「初めて知った」という労働者でトラブルが発生するのです。

また、労働関連の法律は大小数多く定められており、改正も頻繁に行われています。特に、今年から始動している政府主導の「働き方改革」では、じつにさまざまな法律が改正され、労務の現場が追い付いていない状況も見受けられます。就業規則と同じく、労使関係を円滑にするはずの法律も、両者が正しく知らなければ大きなトラブルの種となってしまいます。

人事労務トラブルを防止するために実施すべきこととは

人事労務トラブルの防止策としては、全従業員が人事労務関連についての知識に触れることができる機会を企業側が積極的に作ることが挙げられます。

と言っても、社内での定期的な研修などは既に実施されているところが大半でしょう。しかし、大切なのは、研修を行ったという事実よりもその中で「労働者が労務に関する法律や社内の就業規則を正しく理解すること」です。
また、人事労務については些細な内容であったとしても、担当部署への問い合わせが容易にできる仕組みなどを構築することもおすすめします。その第一歩としては、人事労務Q&Aとしての事例集を社内のポータブルサイトに掲載するなどの配慮も効果的といえるでしょう。

さらに、人事労務を担当する部署は独立性を持つことも非常に重要です。なぜなら、担当部署が中立的な立場でないと、相談内容の第1位である職場内のいじめや嫌がらせなど、労働者が感じた問題を告発するにあたって、二の足を踏んでしまうからです。

人事労務トラブルは、いじめやハラスメントなど、対応に繊細さが求められる場面も多くあります。トラブルの重要性を認識し、<>事前に対策を打つことが、解決への一番の近道かもしれません。社内で想定される人事労務の問題をリストアップし、社内で取り組む姿勢を見せることが重要ですが、トラブルが起きてしまった場合は、弁護士などの法律の専門家に相談してみてはいかがでしょうか。