2020年4月1日に施行された改正民法には、保証人に対する保護を手厚くするために、(連帯)保証契約に関する事項に大幅な改正が加えられました。

本記事では、保証契約についてどのように変更されたのか、中小企業の顧問弁護士が丁寧に解説します。2020年4月1日以降に保証契約を締結する際は、抜け漏れがないよう慎重に対応するようにしましょう。

1.そもそも保証と連帯保証の違いとは?

保証には「(単純)保証」と「連帯保証」の2種類があります。似たような言葉なのでどちらがどのような性質を持つものかよくわからない……という方もいらっしゃるかと思います。まずは、保証と連帯保証の違いを知ることから始めましょう。

1-1: 保証人の役割とは

保証人の役割は、主たる債務者が借金の返済や料金の支払いができなくなったときに、主たる債務者の代わりに返済や支払いをすることです。保証人は債務の元本やそれに付随する利息はもちろん、違約金、損害賠償などについても責任を負います。また、不動産の賃貸借契約の保証人は、賃借人とともに原状回復する義務もあります。

1-2: 保証と連帯保証との違いとは

連帯保証も保証も主たる債務者の代わりに借金や支払いを肩代わりすることですが、実は連帯保証と保証の意味合いは大きく異なります。

保証人には、「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」の3つが認められています。

  • ①催告の抗弁権…債権者に請求されたときにまず主たる債務者に請求するよう主張できる権利です。
  • ②検索の抗弁権…主たる債務者の資力があることを理由に請求を拒否できる権利です。
  • ③分別の利益…保証人が複数いるときに保証人の人数で按分した金額のみを支払えばよいことを指します。

連帯保証人にはこの3つが認められていないため、債権者から返済や支払いを迫られたら拒否することができません。それが保証人と連帯保証人の大きな違いです。

1-3: これまでの保証人保護制度の問題点

今までも、書面によらない保証契約を無効にする、個人への融資に関する根保証契約では極度額の定めのない根保証契約は無効とするなど、保証人を保護する制度はありました。

しかし、たとえば「迷惑はかけないから」「名義だけ貸してほしい」と頼まれて連帯保証人になった方が、自分のところに請求が来るまで債務者が膨大な借金を抱えていたことを知らなかったというケースもありました。そういうケースでは、たいていの場合連帯保証人も生活が破綻して自己破産に追い込まれてしまっていたのが実情です。そこで、2020年4月から施行された改正民法では、個人保証人の自己破産を防ぐために保証人を保護するようなルールが作られたのです。

2.改正点①極度額(上限額)の設定ルール

個人保証、特に継続的な取引から生じる不特定の債務を保証するための個人根保証契約に関して、改正点は大きく3つあります。ひとつめは、保証契約を結ぶときに極度額(上限額)を設定しなければならなくなったことです。具体的に極度額をいくらにするかは、債権者・債務者など関係者の間で事前によく話し合いましょう。

2-1: 極度額を書面で定めることが義務に

個人根保証契約を締結する際、保証人が責任を負う極度額(上限額)を書面で定めなければならなくなりました。この極度額を定めていない場合、保証契約が無効となります(改正民法465条の2)。以前は極度額の設定は融資などの貸金等債務に限られていましたが、改正民法では家賃や売買料金なども極度額の設定ルールの対象になりました。
なお、ここでいう「書面」とは、紙ベースの契約書のみならず、パソコンのハードディスクやUSBなどの電磁的記録でもよいとされています。

2-2: 極度額は上限いくらまで設定できる?

極度額の上限や目安については、改正民法には明記されていません。そのため、極度額をいくらに設定するかは、保証する人・される人の間で自由に決めることができます。ただし、保証すべき債務の金額に対しあまりに高額な極度額にすると、公序良俗に反するとされて極度額の定めがないものとして保証契約自体が無効となるおそれもあります。たとえば、賃貸マンションの賃貸借契約で家賃が月8万円であるのに対して極度額を1000万円とすると、家賃に対して極度額があまりにも高額なため無効とされ、債権者がいざというときに債権を回収できなくなる可能性があります。

そこで、参考となるのが、国土交通省住宅局住宅総合整備課の「極度額に関する参考資料」です。この資料によれば、裁判所の判決で連帯保証人に命じられた家賃の未払い分の支払額の最小値は2ヶ月分、最大値は33ヶ月分、平均値は13.2ヶ月分でした(※)。そのため、家賃の保証契約であれば、およそ1~2年分くらいであれば妥当とされやすいかもしれません。

(※)国土交通省住宅局住宅総合整備課「極度額に関する参考資料」

https://www.mlit.go.jp/common/001227824.pdfpp.13

2-3: 個人保証人の範囲が契約期間中に決まることも

個人根保証契約では、いざというときに保証人が負う債務は不確定ですが、契約期間中に、個人保証人が保証すべき範囲が確定することがあります。それは以下のいずれかのケースに該当する場合です(改正民法465条の4)。

  • 主たる債務者または保証人が死亡したとき
  • 保証人が破産したとき
  • 保証人の財産に強制執行がされたとき

改正民法では、保証人の保護の観点から、これらの事態が生じたら保証すべき元本が確定し、保証人はそれ以降新たに発生する債務については負担しなくてもよいとされました。

3.改正点②保証人に対する情報提供義務

2つめの改正点は、事業用の融資や賃貸借などで個人が保証人になる場合、保証人に対する情報提供義務ができたことです。情報提供を求められ得るタイミングは、契約締結時・保証債務履行時・期限の利益喪失時の3つの時点です。それぞれの状況でどのような情報が必要になるのかについて、みていきましょう。

3-1:契約締結時の情報提供義務

たとえば、ある人物が新たに銀行から借入をしようとしているときに、すでに他の金融機関でも負債を抱えていると、債務者が返済できなくなったときに連帯保証人は思いがけない多額の借金を背負うことになります。そこで、主たる債務者は保証契約を結ぶときには必ず以下の3つの情報を保証人に提供しなければならないとされました(改正民法465条の10)。

  • 財産および収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無、金額、履行状況
  • 主たる債務の担保の有無やその内容

なお、主たる債務者が情報を提供しなかった、または間違った情報を提供したことを債権者が知り、または知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことが可能とされました(第465条の10 第2号)。

3-2:保証債務履行前の情報提供義務

保証契約の時点では特に問題が生じていなくても、保証契約締結後には何らかの原因で債務者の経済状況に変化が生じているかもしれません。そこで、保証人から請求があったときは、債権者は予定どおりに返済や支払いができているかどうか(主たる債務の履行状況)について保証人に情報提供をしなければならないとされています(改正民法458条の2)。

3-3: 期限の利益喪失時の情報提供義務

債権者は個人の保証人に対し、期限の利益喪失を知ったときから2か月以内に通知をしなければなりません。通知をしなかったときは、現に通知をするまでに生じた遅延損害金を請求できないものとされました(改正民法458条の3第1項・2項)。

「期限の利益」とは、返済(支払)期限までお金を返済しなくて(支払わなくて)よいという債務者の利益のことをいいます。ここでいう「期限の利益を喪失するとき」とは、返済(支払)が遅れて一括で返済(支払)しなければならなくなったときのことです。そうなると、主たる債務者とともに保証人も本来返済(支払)すべき金額に遅延損害金を上乗せされてしまうため、保証人にも多大な損害が生じる可能性があります。そのため、保証人にもその旨を知らせなければならないのです。

4.改正点③事業のための公正証書作成義務

保証契約に関する改正点の3つ目は、保証意思を確認するための公正証書作成義務です。これも保証人の保護を目的としてつくられた内容なのですが、なぜ公正証書の作成を義務づけることになったのでしょうか。

4-1: 保証意思宣明公正証書は何のために作成する?

保証人が多額の債務を抱えるリスクを十分に認識しないまま保証契約を締結し、結果として保証人も生活が破綻したり自己破産に追い込まれるケースが後を絶ちませんでした。そこで、事業用融資のために、事業に関係のない第三者的な立場にある個人が保証人になろうとするときに、その人物の保証意思を確認するために、保証意思宣明公正証書を作成させることとなったのです。

保証契約が真正に成立していたとしても、公証役場で保証意思の確認を受けていなければその保証契約は無効になりますので注意が必要です。

4-2: 保証意思宣明公正証書の手続き方法は?

保証意思宣明公正証書の手続きは、以下のような流れで進んでいきます。

①保証契約締結日前の1ヶ月以内に、保証人になろうとする方が公証役場に出向きます。必ず保証人になろうとする方本人が公証人から保証意思確認を受けなければならないため、代理人の出頭は認められていません。

②保証人になろうとする方が主たる債務の内容を公証人に口頭で述べることで保証意思を伝えます。

③公証人は、保証人になろうとする方が主たる債務の具体的な内容を理解しているか、主たる債務者が債務を履行しなければ自分が保証債務を履行する義務があることなどを理解しているかどうかを確認します。

④公証人は、保証意思があることを確認するとその内容を筆記し、読み聞かせをしてまたは閲覧させて公正証書の内容を保証人になろうとする方に確認させます。その後、保証人になろうとする方・公証人双方が署名・押印して終了です。

4-3: 公正証書を作成しなくてよい場合とは

以下のような方が保証人になる場合は、事業状況を十分に把握しうる立場にあり、保証債務のリスクを認識せずに保証契約を締結してしまうリスクは低いと考えられます。したがって、以下に該当する方については、保証意思宣明公正証書を作成する必要はありません。

  • 保証人になろうとする人が会社などの法人
  • 主たる債務者が法人のときで、その法人の理事・取締役等または総株主の議決権の過半数を有する者
  • 主たる債務者が個人の場合の共同事業者または主たる債務者の事業に現に従事している配偶者

5.2020年4月以降に保証契約を更新するなら改正民法に対応すべき?

取引基本契約や賃貸借契約などに付随する保証契約で、2020年4月以降に更新時期を迎えるものが今後増えてくるものと予想されます。その場合、保証契約自体も改正民法の規定にあわせたものにしなければならないのでしょうか。それには2通りの考え方があります。

5-1: 家賃保証債務の場合

普通建物賃貸借契約の家賃保証債務については、2020年4月以降に更新時期を迎えるにあたり、改正に対応するための保証契約内容の変更は原則として不要であると考えられています。これは、普通建物賃貸借については、合意ではなく、法律による更新がされるからという理由からです。

ただし、賃貸借契約の更新に合わせて保証契約を新たに締結したり、当事者の合意の上で保証契約を更新する場合は、改正民法に従って保証契約を締結することが必要です。

5-2:家賃保証債務以外の場合

融資契約や取引基本契約、雇用契約などの家賃保証債務以外の契約については、更新時に改正民法に対応した保証契約を新たに締結することが必要と考えられています。
もっとも、保証契約での民法改正への対応の要否はケースバイケースなので、事前に弁護士に相談されることをおすすめします。

以前は個人保証人についてある程度保護はされていましたが、保護が不十分だったと言えるでしょう。今回の民法改正では、保証人を様々な方法で保護しようとする姿勢がみられます。企業としては、保証契約を締結するときには、しっかりと情報を提供して真の合意を取ることが大切になるでしょう。また、今までの契約書の使い回しでは、改正民法に対応できていないおそれがあります。顧問弁護士などによるリーガルチェックを受けることをお勧めします。