すなわちクレームとは、「購入した商品・サービスに意見や不満を持つ顧客が、それを提供した企業に対して問題点を指摘したり、苦情を述べたり、損害賠償を要求したりする行為」を指します。
このクレームへの対応は、企業が必ずと言っていいほど頭を悩ませる問題の一つです。ここでは、クレーム対応についての基本的知識を、弁護士がわかりやすく解説します。
クレーム対応のよくある間違いとは?
クレーム対応において、よくある間違いの一つとして必ず挙がるのが、「顧客の言いなりになること」です。そのような対応の背景には、「クレームが長引くのを避けたい」「顧客が離れて売り上げが下がると困る」などの心情があると思われます。
しかし、クレームの適切な処理は、決して相手からの要求を全て満たすことではありません。まずは、寄せられたクレームに対しての事実確認を行った上で、謝罪、補償、改善などの対応をすべきところはすることが必要ですが、不当な要求に対しては毅然とした態度をとることも必要です。
ですから、事実確認をする前に全ての責任を認めるような発言をして、顧客の言いなりになることは正しいクレーム対応とは言えません。
正しいクレーム対応とは
正しいクレーム対応の手順として、以下のステップを踏むのが妥当でしょう。
- ①相手の話を聞いて、相手の要求を確認すること
- ②原因の特定など事実確認を行うこと
- ③社会的に相当な対応を行うこと(謝罪、改善、損害賠償など)
特に、①で「相手の話をよく聞くこと」が最も重要です。クレームには、店側や担当者などの接客態度に不快な思いをされたなど、心情を害したという内容も多く含まれます。このような場合、金銭的な賠償などというよりは、不快となった経緯や気持ちを理解してもらいたいという側面が強いものです。
よって、クレーム対応の担当者が最初にすべきは、顧客の気持ちに寄り添いよく話を聞くことです。そこから初めて、顧客が何を不快に思い、どのような要求があるのかを汲み取ることができます。
ADRによる解決
ADRとは
顧客の声をしっかりと聞いたうえで、非を認めて謝罪などの対応をする必要もあれば、毅然とした態度での対応が必要になる場合もあります。後者の場合、活用される可能性が高いのが、協議・和解・斡旋・調停などの制度です。これらを「代替的紛争解決制度」(ADR)と言います。
ADRの特徴は、裁判や仲裁のように第三者の判断や決定に従うのではなく、当事者が最終的に解決手段や解決案を決定することができるため、両者にとって納得のいく解決が望めるという点です。
ADRの種類
ADRには、3つのカテゴリーがあります。
1つ目は、民事朝敵や家事調停などの裁判所におけるADR。
2つ目は、公害等調整委員会や労働委員会、建設工事紛争審査会のような、行政機関におけるADR。
3つ目は、日本商事仲裁協会や日本海運集会所、弁護士会の仲裁センターなど民間機関におけるADRです。
これ以外にも、消費者による苦情処理を中心とした消費生活センターや国民生活センター、製造物責任に関連する各種PLセンターなど、様々な機関があります。
現時点で、全てのADRが活発に利用されているとはまだ言えませんが、今度、基盤の整備に伴って利用機会も増加するとみられています。
訴訟には、莫大な時間や費用そして労力が必要となります。まずは、当事者が目的に合ったADR活用するという選択肢を忘れないようにして欲しいと思います。
クレームを防ぐために有効な手段は?
社内に向けての働きかけ
- クレーム事例集を作成し、同じことが起こらないよう教育する
- 日々の顧客対応情報を定期的に共有する
- 社内でクレームへの意識を改善する
クレームを防ぐためには、顧客対応の質を上げることが重要です。そのために、過去に寄せられたクレームの内容やその原因を把握することは非常に役立ちます。また、関係従業員の間で自社のサービスや顧客についての情報共有を行い、連携を図っていくことも重要です。
そして、特に注意を払いたいのが、クレーム対応の失敗による二次クレームの発生です。いくら窓口を設置していても、顧客からのクレームはいつどこへ寄せられるか分かりません。雇用形態に問わず全従業員が、クレーム対応の手順と自身の役割を理解することが重要です。
社外に向けての働きかけ
クレームを防止するために、社内で顧客対応への意識改善や対応の流れについての認知を行うことも重要ですが、直接顧客に向けて働きかけることも有効です。
例えば、自社のHPに顧問弁護士の存在を掲載するなどの方法が考えられます。弁護士の存在を社外にアピールすることで、不当な要求や脅迫に類するようなクレームのどれだけかは、事前に排除することが望めます。
まとめ
クレームは、必ずしも企業にとって「害」ではありません。裏を返せば、顧客からの期待の表れともいえるものです。クレームを適切に対応することで、これまで以上に自社の商品やサービスに対する顧客満足度が上がる可能性もありますし、貴重な意見としてサービス向上の手がかりとすることもできます。
ただし、すべての声に振り回される必要はありません。不当なクレームには、ADRなども利用し毅然とした態度を見せることも重要です。
クレームを受けて対応に困った時には、弁護士などの専門家に法的観点から客観的なアドバイスを受けることも検討してみるとよいでしょう。