東京オリンピックとテレワーク

東京オリンピックまで1年を切った現在、東京オリンピックで予想される大変な混雑の中で日常業務をこなしていくための手段として「テレワーク」が注目され、「テレワーク・デイズ2019」と称した実証実験が行われています。

東京地区で働くトヨタ自動車の従業員約1600人が一斉に在宅勤務をする――。トヨタ自動車は2019年7月22日に始まった政府のテレワーク試行キャンペーン「テレワーク・デイズ2019」に合わせて大規模なテレワークに取り組む。

 

日本経済新聞 / トヨタは1600人が五輪「予行演習」、大企業が相次ぎテレワーク
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00873/071700001/

テレワークとは

「テレワーク」とは、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方です。(総務省HP)
今回の実証実験は、企業に勤務する被雇用者が行う「雇用型」のテレワークです。雇用型テレワークの中には、自宅を就業場所とする「在宅勤務」、施設に依存せずいつでもどこでも仕事が可能な状態の「モバイルワーク」、サテライトオフィスやスポットオフィス等を就業場所とする「施設利用型勤務」などの種類があります。また、実施頻度も週に1~2日や午前だけなど、様々な導入の形があります。

テレワークと時流

…政府が始めたテレワーク・デイズ2019は企業や自治体合わせて約3000団体、約60万人以上の参加を見込むキャンペーンである。

 

日本経済新聞 / トヨタは1600人が五輪「予行演習」、大企業が相次ぎテレワーク

政府が主導する「テレワーク・デイズこの実証実験は主に、東京オリンピックの影響による混雑を念頭においたものではありますが、IT技術の進化している現代、きっかけさえあればこのような働き方が東京周辺に限らず普及していく流れになる可能性は十二分にあります。約3000団体、60万人以上がこの働き方を体験するというのは、かなり大きなきっかけになり得るのではないでしょうか。

そこで、テレワーク導入にあたって、今、企業側が正しく認識しておかなければならない最も悩ましい労務問題「テレワークにおける労働時間」について簡単に取り上げたいと思います。

テレワークにおける労働時間の把握

テレワークは裁量労働ではない

まず、『テレワークは裁量労働だ』…テレワークのためのITコンテンツを提供する企業や、これを採用しようとする企業において,残念ながら多く見られる間違った認識です。
裁量労働制とは、仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、実際の労働時間に関係なく一定の労働時間だけ働いたものとみなす制度です。

また、裁量労働制を適用することができる業務は限られており、専門業務型裁量労働制に該当する19業務と、企画業務型裁量労働制に該当する8類型の業務のみです。
テレワークで働いている労働者の中に、裁量労働制を適用することができる労働者が含まれることは大いに考えられますが、テレワークのすべてが裁量労働制には該当し得ないでしょう。

テレワークとみなし労働

前述のような認識がなされている業務の多くは、「みなし労働時間制」が適用されるものになります。更に正確には、「事業場外労働のみなし労働時間制」です。
この制度は、労働基準法第38条の2に規定されており、簡単に言えば「労働者が職場の外で業務をしていて、使用者が労働時間の算定をすることが困難である場合には特定の時間、労働したこととみなす」という内容が定められています。

ご存じの通り、働き方改革では使用者に従前よりも厳格な「労働時間の把握義務」が課されました。みなし労働時間制は、その使用者の義務を免除する規定であるとも言えました。しかし,労働時間の把握義務の強化にともなって,「みなし労働時間制」が適用される前提である「労働時間の算定をすることが困難である場合」という状況は、非常に限定されていると言えるでしょう。

テレワークと労働時間把握義務

テレワークにおいても、例えば、モニタリングによってテレワーカーの労働時間を把握・算定することができる場合や、スマートフォンなどの端末によって指示を出すことによって労働時間を管理できる場合には、みなし労働時間制を適用することはできません。
更に、仮にテレワーカーの従事する業務が裁量労働の対象業務であったとしても、同様にカメラや端末で労働時間を管理したり、業務に指示を出していたりすれば裁量労働制の対象外となります。

つまり、ITツールで繋がって場所を選ばず仕事ができるこの時代、無理矢理に「みなし労働時間制」を利用しようというのはナンセンスなのです。紛争の防止という観点から見ても、労働時間の把握は使用者の義務という位置付けですから、可能な限り履行すべきなのです。

テレワークは労働力不足解消の切り札に?

テレワークにおける労働時間の把握を具体的にどのように行うか、初めの一歩は試行錯誤かもしれませんが、その課題さえクリアすることができればメリットは無限大です。
東京オリンピックほどの大規模な混雑にも大きく影響されることなく業務を進めることができ、労働者はワーク・ライフ・バランスの実現も可能になります。また、スペースや資源などのオフィスコストを始め、通勤に係る交通費や移動時間の削減にも繋がります。加えて、人材採用市場は全世界に広がり、ゆくゆくは労働力不足の解消も見込めます。

これからの時代を生き残っていくことができる「しなやかな企業づくり」を見据え、この機会にテレワークを始めとする多様な働き方とその管理方法の整備に、目を向けてみてはいかがでしょうか。