IT企業といえば、専門的な技術者集団という側面もありますが、高度な特殊分野であっても人や物が関わりあう以上、法的トラブルが発生する可能性は十分にあります。
ここでは、IT企業が直面する可能性のある法的トラブルとその原因、防止策をまとめて解説します。

IT企業でよくある法的トラブル

IT企業が直面する法的なトラブルにはどのようなものがあるでしょうか。
法的トラブルと一口に言っても、技術的な側面のある分、紛争の内容は特殊で多岐にわたり複雑化するのが実情です。
なかでも、オーダーメイドのシステム開発に関しては、法的トラブルに陥りやすい傾向にあります。システムの開発では莫大な開発費が動くため、ひとたび問題が発生すると損害額も大きくなり、ひいては紛争そのものまで大きくなってしまいます。

トラブルが発生する原因とは?

なぜ、このようなトラブルが発生するのでしょうか。注文者の注文通りに技術者がシステムを開発し、納品すれば問題はないはずです。それが一筋縄にはいかない、ここが一般の小売と技術的な要素の強いIT業界の大きな違いです。

イメージの難しさ

ひとつの大きな原因として、システムを発注する「ユーザー」とシステム開発を請け負う「ベンダー」との間で、システムの完成形イメージが共有できていないことが挙げられます。
特に、オーダーメイド開発の場合には、これまでにないものを作り上げることになるため、はじめに完成形をユーザーに示すことができません。
加えて、システムは無形です。有形のものであればCGなどを利用して完成形をシミュレーションするなど、ユーザーとベンダーがイメージを共有する手段はありますが、システム開発ではそれが不可能なのです。
こうして手さぐりに製作されたシステムが、完成したときに結局ユーザーの想定していた内容と異なれば、仕様の追加・変更・削除などが行われることになります。このような作業は納期や請負金額にも影響し、当初の契約との関係で法的トラブルへと発展する可能性が高くなるのです。

システム不具合への認識の相違

もうひとつの大きな原因は、ユーザーとベンダーの間に存在するシステム不具合への認識の違いです。
システムという製品が他の製品と異なるのは、納品された段階が最終段階ではない場合が多いという点です。システムは、最初に一応の運用が可能な段階に至ってもそれが「完成」という性質の製品ではありません。不具合が起こるのは、ベンダーにとっては想定済みで、当然に補修を予定しています。その都度、補修を行っていくことで最終的にユーザーが満足できるシステムを作り上げていく、「不具合」はベンダーにとっては開発の一段階にすぎません。
しかし、このような特殊性はあまり理解を得られていないのが現実です。確かに、ユーザーはそのシステムを利用して事業を行おうとするのですから、一般的には「納品後に不具合があっては事業に支障を生じて困る、損失だ」というのもまっとうな言い分ではあります。よって、ユーザーがシステムの不具合に対して、瑕疵があるため解除したいなどの請求を行うこともまま見受けられるケースです。
こうして、ユーザーとベンダーで交渉が決裂し、契約解除に伴うベンダーへの報酬の支払いユーザーへの損害賠償などの法的トラブルが発生することになります。

IT企業ができる法的トラブルへの対策とは?

以上のように、紛争が起こりやすいこと、一度紛争になってしまうと大きな金銭が絡み経済的にもダメージが大きいことが分かったかと思います。それでは、IT企業はどのようにしてこのような法的トラブルを防止すればよいのでしょうか。

カギは契約書

一番は、システム開発に関する契約書を作成する時点であらかじめ、将来の紛争防止を見越した内容の条項を盛り込んでおくことです。
特に、システム開発が頓挫した場合や、不具合が生じた場合などについては細かく対応を定めて合意することが大切です。その際には、ユーザーとベンダー両者の視点から問題になり得る事項を洗い出し、例えば、どこまでを不具合とするのかなどの具体的な内容についても、ある程度明確な基準を設定しておく必要があるでしょう。

密な情報共有を行う

また、実際にシステム開発の段階に入った際には、プロジェクトマネージャーなどを介して、ユーザーとベンダーの間で定期的な情報共有を行うことも効果的です。
開発を進める途中でユーザーへの報告を欠かさず行い、少しでもユーザーとベンダーが持つ完成形のイメージを擦り合わせて行くことによって、納品時の「こんなはずではなかった」をなくすことができます。想像していた製品と納品された製品の内容が一致していれば、ユーザーがベンダーの瑕疵を訴えることはありませんし、ユーザーから修正の注文が入る場合でも、なるべく早い段階の方が時間やコストを少なく抑えることができます。

まとめ

IT企業で起きる法的トラブルの対応には、ITという分野の特殊性への理解が必要です。そのうえ、法律の解釈にも精通していなければなりません。
トラブルが起きてからでは、対応に時間・労力・金銭すべてがかかってしまい、損害は発生しているも同然です。冷や汗をかきながら事後的な対応に迫られるより、事前にIT業界の法的トラブルに強い弁護士に相談し、契約書の作成段階から法的アドバイスを受けることを検討されてはいかがでしょうか。